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成人期のADHDの診断と治療【女児のADHDが幼少期に見逃されている可能性に注意】

No.4785 (2016年01月09日発行) P.54

姜 昌勲 (きょう こころのクリニック院長)

登録日: 2016-01-09

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)は,代表的な子どもの疾患ですが,近年,成人期以降に初めてADHDの診断や鑑別が問題となったり,治療を開始する事例が増えています。しかし,一般の医師や精神科医にはなじみが薄く,見逃されたり,逆に過剰診断となることも懸念されます。きょう こころのクリニック・姜 昌勲先生に成人期のADHDの診断や治療のポイントについて,ご教示をお願いします。
【質問者】
松本和紀:東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野 准教授

【A】

小児のADHDは3~5%存在すると言われ,男女比も3~5:1と男児に多くみられる疾患である,ということがこれまでの定説でした。ただ,これが成人になると,男女比が1:1と限りなく等しくなります。生来の発達障害であるはずのADHDの有病率が変わるという奇妙な現象は,「女児のADHDが幼少期に見逃されている」という仮説で説明が可能です。
押さえておくべきポイントとして,以下の4点があります。
(1)DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th Edition)から,ADHDの診断基準では発症年齢がこれまでの7歳以下から12歳以下に引き上げられました。つまり,たとえば10歳で大きな問題がなくても,11歳で症状が顕在化すればADHDと診断してよい,ということです。幼少か否かにとらわれない細かな生育歴の聴取が必要になります。
(2)ADHDには3つの表現形(不注意優勢,多動衝動優勢,混合)がありますが,他人に迷惑をかけない「困りごとが自己完結」する不注意優勢においては,見逃しが特に多くなります。
(3)成人において,結婚や就職などのイベントにより,配偶者や同僚などを巻き込む形で問題が顕在化する症例が多々あることに注意が必要です。
(4)うつや不安症などの合併症が多くみられます。
疾患喧伝,過剰診断には無論留意しなければなりませんが,特に(4)の併存症の裏にある発達障害の問題に気がつくことによって治療が進展する可能性も多いのです。
治療としては,成人に使用できる薬剤としては,塩酸アトモキセチン(ストラテラR),徐放型メチルフェニデート(コンサータR)がありますが,いきなり薬物療法ではなく,まず診断,自己理解,環境調整とともに一番大切なのは自助努力ではないか,と考えています。

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