【Q】
破傷風ワクチン(破傷風トキソイド:TT)の副反応は強いとされている。アナフィラキシーショックの頻度は。また破傷風の予防として,量的にジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)3種混合による少量接種の適応は考えられるか。
(北海道 S)
【A】
TTの副反応は,通常は接種部位局所の腫脹と紅斑と掻痒感である。添付文書によればアナフィラキシーやショックの頻度は0.1%未満とされており,重篤な副反応の可能性は低いと思われる。しかし,紛れ込みの有害事象を含めて否定はできない。
なお,筆者にDPT:0.5mLを成人に接種すると副反応が心配だという疑問が寄せられたので,2011年1~8月までの8カ月間に,DPT:0.5mLを接種した全例(10歳以上63歳までの533人)の副反応について次回受診時および電話にてアンケート調査を行った。
その結果,10~34歳の若い世代(121例)では24.8
%に発赤腫脹を認めたが,35~63歳の年長者(412例)では10.8%にすぎなかった。特に訴えがなかったのは前者で71.9%,後者で86.2%であった。同メーカーのDPTでの1期の追加(2005年の調査:84例)では,発赤腫脹が53.6%,発熱が17.9%で,著変なしは28.6%であった。
このことから,破傷風の予防としての追加接種に関しては,DPTを0.5mL(または0.2mL)で追加すれば,TTで追加するよりも安全で副反応の心配も少なく,より有効で有用であることがわかる(投稿準備中)。TTは,破傷風の発症リスクが高く,傷口の汚染度の高い怪我をしたときにはその基準に沿って使用すればよい。
日本版Red book 2012(文献1)によれば,通常はDPTなどTTが入ったワクチンの基礎免疫の追加から5年以上の経過で1回追加する。破傷風の基礎免疫が確認できなければ,傷口の汚染程度に応じて,ヒト破傷風免疫グロブリン(Tetagam P)250の筋注とTTを接種する。比較的清浄な傷であればTetagam Pは不要で,TTもDPTなどの最終接種から10年以上の経過で1回追加する。
つまりTTは治療ワクチンであり,予防ワクチンではないと理解すべきである。そのため,外傷時には保険適用がある。なお,1969年4月以降のDPT接種の記録,つまり破傷風の基礎免疫が確認できない場合には,DPT:0.5mLを接種し,局所反応を確かめる。発赤腫脹があれば基礎免疫があると考えて,その1回の追加接種で十分であろう。腫脹がなければ4~6週間後にDPT:0.5mLで2回目を接種して,さらに半年後に追加する。決してTTでの打ち直しはすべきではない。個人にとってより大切な百日咳とジフテリアの免疫を付与する機会を失うことになるからである。
破傷風感染リスクが高いと思われる対象者に対しても,母子手帳できちんと確認してDPTで追加すれば,予防効果は必要十分であり安全で有効である。TTは予防に使用するワクチンではないことを理解して,適切に対応して頂きたい。成人での免疫の低下と流行が心配されているのは百日咳であり,百日咳の追加免疫を重点的に考えたい。既にTTで基礎免疫または余分に追加されてしまった場合には,これ以上の不適切な接種は中止して,より安全で有効な,DPTを活用したい。
なお,DPTの生産中止が伝えられている。DPTの代わりとして,DPT‐IPV(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ)4種混合でも同様の追加接種が可能である。
DPTを活用する試みは,日本ワクチン学会の成人百日咳ワクチン推進ワーキンググループで鋭意検討され,良好な効果が得られている(文献2)。
1) 米国小児科学会(American Academy Pediatrics), 編:最新感染症ガイドR-Book 2012. 岡部信彦, 監. 日本小児医事出版社, 2013, p707-12.
2) 岡田賢司:臨とウイルス. 2010;38(5):393-9.