看護師を対象にした「特定行為の研修制度」が来年10月からスタートする。厚労省は「在宅医療推進の切り札」として看護師の活躍に期待するが、医療安全をいかに担保するか、課題は残る。
「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」は、19本の法律を一括している。そのうちの1つが、保健師助産師看護師(保助看)法だ。改正保助看法成立により、「特定行為の研修制度」が来年10月からスタートすることになった。厚労省は、制度創設を「在宅医療を推進する上で1つの切り札」(原徳壽医政局長)と位置づけ、看護師の一層の活躍に期待する。
「特定行為」とは、今まで医療現場で診療の補助に該当するかが明確ではないグレーゾーンとされていたもの。保助看法では、看護師の診療の補助のうち「実践的な理解力、思考力、判断力と、高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるもの」と定義づけた。現在、「気管挿管」「インスリン投与量の調整」「脱水の程度の判断と輸液による補正」など41種類が候補に挙がっている(別掲)。
研修を修了した看護師は、医師の包括的指示のもとで特定行為を行うことができる。包括的指示について厚労省は、「医師が患者の診察を行い、状態を把握し、研修を修了した看護師に行わせることが可能か判断した上で、手順書に基づき看護師に出す指示のこと」としている。つまり、患者の状態が手順書の範囲内であれば、看護師は医師の判断を待たずに特定行為を実施できる。ただ、研修を受講していない看護師でも医師の“具体的指示”があれば、これまで通り特定行為を実施可能だ。
手順書には、患者名や病態の範囲、行為の内容などが記載される予定。研修内容は特定行為ごとに講義・演習・実習で構成されることが検討されている。
特定行為の内容や手順書の記載事項、研修制度の内容、研修機関の指定基準など詳細は今後、厚労省の審議会で議論し、今年度中に省令で定められる。
なお、研修修了後に試験はない。厚労省は研修を修了した看護師を把握するため、指定研修機関から名簿の提出を受けることを検討している。
国会審議の中では、リスクが高い特定行為によって医療事故が起きた際の法的責任の所在が問われた。
田村憲久厚労相は「看護師は手順書に則って特定行為を行うのであり、医師から独立して医行為を行うわけではない」と説明しつつも、法的責任については「司法が総合的に判断する」と述べるにとどめた。
このほか田村厚労相は、研修の目的を「安全性の担保」と強調、「医師は(包括的指示を出す)看護師の能力を適切に判断しなければならない」と指摘した。
国会審議の中で特に懸念されたのは医療安全の担保だ。今後始まる具体的な制度設計の議論においても、最も重要な課題といえるだろう。