在宅医療では、病気や身体の情報だけでなく、患者やその家族の歴史、想い、住んでいる地域のことなど、あらゆる情報がケアにつながっていく。
診察では複数の職種で患者のお宅を訪問するようにしている。医師は患者の体調や表情を、看護師は家族の想いや気がかりを、事務スタッフは書棚の本からその人の好みを。生活から切り離された「患者」だけを診る病院診察室と異なり、一度に流れ込んでくる生活の中の膨大な情報を集めたり整理したりする必要がある。私たちは患者のお宅でいろんな写真を撮る。写真に写った、いろんなものを集約している情報は後で見返したときにそのときの感情をも思い出させる力を持っていて、それが医療やケアの選択に重要な意味を持つことも少なくない。
Mさんは60代の肝臓がん患者。退院してきたとき、予後は1週間ほどと思われた。疼痛コントロールや輸液など病院の緩和ケアを継続して提供し、奥さんと娘さんの家族3人水入らずの生活をサポートした。とても仲の良い夫婦・家族であることは、お宅の雰囲気から伝わってきた。
そのMさんが亡くなって1週間後、グリーフケア訪問を兼ねて、お線香を上げに訪問した。通常は1、2カ月後に伺うことにしていたが、あまりにも仲の良いご夫婦だったので、奥さんはさぞかし落ち込んでいるだろう、食事も睡眠もとれていないかもしれない、と思って早めの訪問を決めた。
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