「遅く見つかってよかった」。ステージⅣの肺がん患者さんを訪問したときに言われた一言だ。書き間違いではない。「早く」ではなく、「遅く」。本当にそう言われた。医者になったばかりの私にはとても理解できないことだっただろう。医者になって30年、それでも理解できるとは言いがたいが、今では少しはわかる。この患者さんは、単に強がりを言っているだけではない。私が思いもよらないようなステージに達している人かもしれない。
20年以上前、自治医大の卒後の義務としてへき地診療所に赴任した頃は、外来患者から進行がんの患者が出たりすると、ひどく無力な感じがしたものだ。その反対に、内視鏡で早期胃がんを発見したりすると、俺もこれで一人救った、などと得意になっていた面があったように思う。
もちろん、進行がんを減らしたいし、早期で見つけて助けたい、それを否定するつもりはない。医者の重要な仕事だ。しかし、進行がんの悲惨さを強調するあまり、早期がんで治療するメリットを重視するあまり、逆に失っているものがあるのではないか。そういうことを考えさせられる。こうした患者さんは、早期発見できなかったことにより何かを失ったわけだが、その反面、確かに何かを得ているのである。得ていなければ、こんなふうに言うわけがない。
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