長時間労働による虚血性心疾患の相対危険度(RR)は1.80とされ(文献1),うつ状態,不安,睡眠障害の発生率も上昇させると報告(文献2)されている。長時間労働は趣味,会話,睡眠の時間を減らし,覚醒努力と心理的ストレスを増やし,交感神経の緊張などから高血圧と動脈硬化を助長して循環器疾患や精神疾患のリスクとなる。一般に,男性労働者の死因は約20%が循環器疾患で,個人のリスクには,高齢,男性,血圧高値,脂質異常,喫煙,内臓肥満,耐糖能異常,坐位中心生活,睡眠不足,家族歴などがあり,職場のリスクには,長時間労働,寒冷,重量物,二硫化炭素,心理的負荷などがある。
わが国は週60時間以上働く労働者が多く,「健康日本21(第二次)」では,2020年までに5.0%に減少させる目標を立てている。循環器疾患の労災認定では,前日に異常な出来事があるか,短期間(1週間)または長期間(6カ月間)の長時間労働があれば,それに不規則勤務,拘束時間,出張,交替制・深夜勤務,作業環境(温度,騒音,時差),精神的緊張の程度を総合的に考慮する基準が示されている。精神障害の労災認定でも,長時間労働が考慮されている。
労働安全衛生法は,長時間労働者を対象に医師による面接指導の実施を規定している。現場では,疲労蓄積度自己診断チェックリストがよく利用されている。産業医は,上司にも長時間労働の原因・見通し・対策を尋ねて,労働時間の削減のほか,業務の過重感を改善する対策を助言・指導する。
1) Virtanen M, et al:Am J Epidemiol. 2012;176(7):586-96.
2) Bannai A, et al:Scand J Work Environ Health. 2014;40(1):5-18.