【Q】
現在53歳で,36歳のときに悪性リンパ腫にて,胃,胆嚢,脾臓を摘出された患者がいます。手術前後のワクチン接種歴はありません。肺気腫があり,23価肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンを接種しました。このほか,推奨されるワクチン(Hib,髄膜炎菌など)がありましたら,投与スケジュールなどについてご教示下さい。 (香川県 T)
【A】
脾臓はリンパ系の臓器にもかかわらず,リンパ組織からの連絡がなく,血流のみ流入するユニークなリンパ系臓器です。脾臓の役割は大きくわけて,濾過機能,免疫機能,蓄積機能,造血機能の4つであり,脾臓摘出によってこれらの機能が低下する状況となります。
脾臓の免疫機能として,IgM産生,非オプソニン化細菌の除去,マクロファージ活性化因子であるtuftsinの活性化,補体の終末成分の活性化に関与するproperdin産生を担当しており,脾摘によってこれらの機能が低下するため,肺炎球菌,髄膜炎菌,Hib感染リスクは健常人の50倍にも上昇すると報告されています。そのうち,肺炎球菌感染が50~90%を占め,次にHib,髄膜炎菌の感染リスクが上昇します。サルモネラ菌も脾機能低下に関連して骨髄炎をきたすことがあると報告されており,大腸菌,緑膿菌,腸球菌,バクテロイデス,マラリア感染などのリスクも上昇します(文献1)。
脾摘直後の感染症の死亡率は50~70%と高く,死亡の大半が24時間以内で,そのほとんどが肺炎球菌によるものであり,劇症の経過をたどるとされています。また,脾摘後2年間が最も感染症リスクが高いとされています(文献1)。
無脾患者へのワクチン接種についてですが,肺炎球菌, Hib,髄膜炎菌に対するワクチンは推奨されています。その投与タイミングは前回のワクチン接種時期によりますが,肺炎球菌ワクチンは,PCV13の投与と,その後8週間あけてPPSV23の投与が推奨され,PPSV23単独投与よりも抗体産生が高まるとされています。Hib感染症は,成人や小学校高学年では少ないため,全例をHibワクチン接種の対象とせず,過去での未接種症例に限定する方針が推奨されています。髄膜炎菌ワクチンは,quadrivalent meningococcal polysaccharide vaccineの2回投与が推奨され,インフルエンザは細菌感染のリスクを上昇させるため,毎年のインフルエンザワクチン接種が推奨されます(文献2)。
1) Di Sabatino A, et al:Lancet. 2011;378(9785):86-97.
2) Rubin LG, et al:N Engl J Med. 2014;371(4):349-56.