厚生労働省は10月4日、『平成28年版厚生労働白書』を発表しました。副題は「人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える」であり、これが第1部のテーマにもなっています。第1部を読めば、「人口高齢化を乗り越える」ために政府・厚生労働省が取り組んでいる最新の諸施策を鳥瞰できます。
以下、第1部の「はじめに」で「第1部のメイン」と位置づけられている第4章(特に第3・4節)を中心に検討します。
第1部は以下の4章構成です(全227頁):第1章「我が国の高齢者を取り巻く状況」、第2章「高齢期の暮らし、地域の支え合い、健康づくり・介護予防、就労に関する意識」、第3章「高齢期を支える医療・介護制度」、第4章「人口高齢化を乗り越える視点」。
第1・2章では高齢化・高齢者についての官庁統計(客観データ)と独自の委託調査(40歳以上の男女を対象にした意識調査)」の結果が多数紹介されており、データブックとしても使えます。
第1・2章で注目すべきことは、高齢者の就労が多面的に分析されていることです:「高齢期の就労の状況」(第1章第3節)、「就労に関する意識」(第2章第5節)。さらに第4章の第1節が「意欲と能力のある高齢者の活躍する『生涯現役社会』」であることを考えると、厚生労働省は今後の超高齢・少子社会を乗り切る「社会モデル」(の1つ)として、高齢者の就労をさらに増加させる「生涯現役社会」を目指していると読みとれます。私もそれは妥当だと思い、同じ視点から、毎年の学位授与式で卒業生に対して、「大学を卒業した後も、継続して勉強し、可能な限り長い期間働くこと」をお願いしています。
第3章は、現行の医療保険制度、医療提供制度、介護保険制度の概説です。
第4章は次の4節構成です(第1節は既述):第2節「健康づくり・疾病等の予防の取組み」、第3節「地域で安心して自分らしく老いることのできる社会づくり」、第4節「暮らしと生きがいをともに創る『地域共生社会』へのパラダイムシフト」。
第2節では、健康づくり・疾病等が医療費・社会保障費に与える影響について触れていないことに注目しました。これは、「健康長寿社会の実現に向けて~健康・予防元年」を副題とした『平成26年版厚生労働白書』が、何の根拠も示さずに「医療費の負担等を軽減させるためにも健康寿命の延伸が重要」「社会保障負担の軽減も期待できる」と断定していたのと対照的であり、見識があると思います(詳しくは本連載㊱〔4712号〕,拙著『地域包括ケアと地域医療連携』勁草書房,2015,202-207頁)。
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