近年、新聞、雑誌はもとよりテレビ、インターネットなどあらゆるメディアにサプリメントのコマーシャルが溢れている。元々は、通常の食生活を行うことが難しく、必要な栄養成分を取れない場合に、補給・補完を目的として利用するためのビタミンやミネラル、アミノ酸などがその成分である。しかし、最近は一層の健康増進、疾病予防のみならず、疾患の治療を目的としたサプリメントの摂取が増えているようである。食品メーカーのみならず医薬品メーカーもこの分野に進出していることから、消費者の混乱もうなずける。有名女優やスポーツマンなどがCMに登場し、効能・効果と紛らわしいキャッチコピーで健康な中高年者や、疾病を抱えた患者の心をとらえている。
外来診療において、特定のサプリメントを利用してよいかどうか主治医に尋ねる場合はまだ良いほうで、勝手にあれこれと摂取している例の多いことが報告されている。
2001年に医薬品と食品の間に位置するものとして特定保健用食品と、栄養機能食品が定められた。科学的根拠を基に認定され、いわゆる「バンザイマーク」を付された特定保健用食品が「トクホ」である。近年は中性脂肪・体脂肪増加抑制目的や、血糖、血圧が高めの人を対象としたものが増えてきている。これらは作用力価がそれほどではないものの、科学的に効果が証明され承認されたものである。もっとも、効果を期待できる食品の継続使用が必要な患者であれば、医療として健康保険を利用し一般の医薬品による加療を受けるべきであるし、そのほうが安全で、しかも本人にとって経済的である。
最近ではトクホやビタミン、ミネラルなどの栄養機能食品と異なり、臨床試験で有意差が証明できなかった条件付きトクホや、現内閣の成長戦略の一環として機能性表示食品制度も加わった。機能は表示しないものの、行間を読ませ、あるいは暗示するだけで売れているサプリメントであり、いわゆる健康食品と一般には区別が難しそうである。
薬物性肝炎の原因の上位にウコンなどの健康食品が挙がっているだけでなく、脂肪の吸収抑制作用のある食品では特定の医薬品の吸収に影響が出そうだし、サプリメントによる薬物代謝酵素誘導や酵素阻害作用、薬物トランスポーターの修飾など、医薬品との相互作用、すなわち医薬品の作用増強、作用の減弱・消失などの報告がたくさんある。医療保険からではなく、国民の懐からまかなわれるこれらのサプリメントで、健康増進・疾病予防のみならず医療の助けになれば、政治的に成功といえよう。しかし、サプリメントによる健康被害や、薬物との相互作用による余分の医療費が必要となる場合を考えると、医療者が声を挙げる役目を果たさなければならないであろう。