厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(座長:渋谷健司東京大学大学院教授。以下、ビジョン検討会)は4月6日に「報告書」を発表しました。これを受けて4月20日に開かれた「医療従事者の需給に関する検討会」と「医師需給分科会」の合同会議では、「報告書」の内容を踏まえ、その具体化に向けた検討を行うこととされました。そこで、今回は「報告書」について検討することにします。
ただし、「報告書」の中身の検討に入る前に、検討会の設置が手続き民主主義に反することを指摘します。私は、厚生労働省が2006年に唐突に療養病床の再編・削減方針を提案した時以来、医療改革の検討は、改革の内容の適否と改革の手続きの適否の両面から行っています。後者では「手続き民主主義」を重視し、「大事なのは内容(だけ)」という立場はとりません(『医療改革』勁草書房, 2007, 129頁)。
医師の需給や偏在対策については、検討会開催に先立って「医療従事者の需給に関する検討会医師需給分科会」が精力的な検討を行い、昨年6月3日に「中間取りまとめ」を発表しました。それでは、「(2016)年末に向けて具体的に検討を進め、取りまとめを行う」とされていました。
しかし、同年10月に分科会とは別個に「ビジョン検討会」が立ち上げられ、その後分科会は開店休業となりました。この検討会は塩崎恭久厚生労働大臣の強い肝いりで開催されたと言われていますが、医療政策の検討・形成は厚生労働省内の既存の審議会や検討会の存在や議論を経て行うという手続き民主主義に反します。
なお、「ビジョン検討会」の開催は、「中間取りまとめ」中の「『新たな医療の在り方を踏まえた医師の働き方ビジョン』(仮称)を策定し、その上で必要な医師数を検討する」との文言を根拠にしているとされていますが、医師需給分科会の多くの委員が、公式の場で、このようなことは分科会ではまったく議論されず、突然、挿入された文言と証言しています(2016年9月15日第7回医師需給分科会での権丈善一構成員の発言、同年10月20日の社会保障審議会医療部会での山口育子委員の発言等)。
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