米国精神医学会が発表している『DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル(2004年に出版の新訂版)』1)において,「身体表現性障害(somatoform disorders)」には7つの疾患が分類されている。30歳以前に始まり,複数の疼痛,胃腸症状,性的症状,偽神経学的症状など,多彩な身体的症状を示す「身体化障害」,心理的な葛藤やストレス因子が発症や悪化に関与して,随意運動機能や感覚機能の障害を示す「転換性障害」,自分が重篤な病気にかかる,あるいは既に罹患しているという観念にとらわれる「心気症」,重篤な痛みを訴え,その発症や経過に心理的要因の関与が認められる「疼痛性障害」などがこれに含まれる。また,自分の外見に欠陥があるという考えにとらわれて生活が障害される「身体醜形障害」も,身体表現性障害に分類されている。
患者が訴える身体症状に該当する身体疾患の検索を十分に行っても身体疾患の診断には至らないか,もし身体疾患があったとしてもそこから予測される身体症状を大きく超える苦痛の訴えが生じることが特徴である。身体的検索では問題が見つからなくても,患者にとっては強い苦痛を伴い,社会生活や職業面においても問題が生じてしまう。また,患者自身はこれらを「身体的な問題」と認識しているため,一般診療科を受診することが多く,身体的な問題はないと説明されても納得できず,ドクターショッピングに至ることも少なくない。患者の訴えは,詐病のように意図的に捏造されるものではない。このため,主観的体験であることに留意した対応が求められる。
身体表現性障害は,身体症状や身体へのとらわれという側面が共通する複数の疾患をまとめた概念である。2013年に米国で出版されたDSM-Ⅳの改訂版であるDSM-52)では,「身体症状および関連障害(somatic symptom and related disorders)」という新たな概念で整理し直されている。
●文献
1) American Psychiatric Association, 著, 高橋三郎, 他訳:DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 新訂版. 医学書院, 2004, p187-194.
2) American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM-5. 5th ed. American Psychiatric Publishing, 2013, p309-327.