国鉄(当時)全路線の完全乗車に挑んだ過程をまとめた紀行文。登場する路線の多くが廃線になったり第三セクターに移管されている(宮脇俊三著、河出書房新社、1978年刊〈写真は1980年発行の河出文庫版〉)
宮脇俊三氏による『時刻表2万キロ』は、昭和の鉄道紀行文学に金字塔を打ち立てた作品として高く評価されている。1978年には第5回日本ノンフィクション賞を受賞している。また、著者は『日本の歴史』『世界の歴史』シリーズを世に出し、北 杜夫を見出した名編集者でもある。
処女作でもある『時刻表2万キロ』は、著者が5年の歳月をかけて全国各地に散らばる未乗の国鉄ローカル線を1つずつ乗りつぶしていく記録である。洒脱な文体と教養に裏づけられた描写は、当時高校生だった私を魅了した。著者の眼を通じて映し出される当時の日本の情景が、飄々としたユーモアが漂う文体で描かれており、私を旅の世界へと誘った。他に目的はなく、ただ鉄道に乗ることだけが目的の旅。いつかは自分もこんな旅をしてみたいと思った。そんな旅のあり方や楽しみを世に知らしめたのも、著者の業績である。
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