「あれ?ないよ、ない、ない!」
内視鏡をしていた先生が、怪訝そうにひときわ大きな声を発した。内視鏡室にいたスタッフや研修医がすぐに周囲に集まり、カルテを確認したり、胃粘膜が映っているモニターを一緒に見たりした。「なんで?消えることがあるのか?信じられないよ!」
患者さんは60歳代の女性で、約3週間前に上部消化管内視鏡検査を行い、小さな隆起性病変の病理組織検査で悪性リンパ腫と診断されていた。全身検索を行い、胃以外の臓器には明らかな病変がなかったため、手術を行う予定となった。そして、術前に病変の広がりを確認するために再度上部消化管内視鏡検査が行われていたところだった。
今から約20年前、平成8年から10年まで私は呉共済病院で研修医として勤務していた。ローテーションでちょうど消化器内科に配属中の出来事で、今でも鮮明に覚えている。内視鏡をしていたのは上村直実先生(現・国立国際医療研究センター国府台病院)であった。
「先生、胃にできた悪性リンパ腫が自然に消失することがあるのですか?」
「いやー、ないと思うよ。でも、よくわからないから調べてくれる?」
当時はインターネットを使って文献検索ができる環境ではなかった。どう調べたらよいかわからず先輩研修医に相談すると、同じ共済組合連合会の虎の門病院の図書館にファックスして文献を検索し、取り寄せることができると教えてもらった。
残り456文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する