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医師自身への医療行為

No.4685 (2014年02月08日発行) P.71

竹中郁夫 (弁護士)

登録日: 2014-02-08

最終更新日: 2017-09-21

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【Q】

自治体へき地診療所の一人勤務医。周囲に医療機関はない。診療中にけがをし,抗菌薬の点滴を行った。この場合の費用は自費か,それとも保険請求してよいか。
(長野県 U)

【A】

法では,自己診療を保険診療報酬請求することはできないと考えるべきだが,保険によって例外があるので保険者に照会する必要がある。また労災も考慮して判断されるべきであろう

医師法第17条は「医師でなければ,医業をなしてはならない」と定めるが,ここでいう「医業」とは,「業として,医行為を行うこと」をいう。

自己診療は医行為であっても,業という点から医業から外れる行為となる。また,健康保険法なども,被保険者と被保険者を診療する保険医をあくまで同一人となることのない前提で規定していることから,医師法や健康保険法などで自己診療を明文規定で禁じていなくとも,自己診療を保険診療報酬請求することはできないと考えるべきであろう。

ところで,医師国保などは自家診療の禁止を原則としているが,過疎地などにおいて自家診療を例外的に認める例外規約がある組合も存在する。しかし,診察料などは支給されないことから保険上の本来的給付というより,組合員への福祉的配慮と思われる。

質問者が加入している保険が不明なので,保険が適用されるかどうかは,保険者に照会してみないと,前述のような原則と例外があるので,明確な回答は困難である。

次に,診療中の怪我とあるが,これも労災かどうか不明である。労災保険制度では,労働者が業務上または通勤による災害(以下「労働災害」という)により負傷し,または病気にかかった場合には,労働者の請求に基づき,治療費の給付などがなされる。

健康保険は,労働災害とは関係のない傷病に対して支給されるものであり,労働災害により負傷し,健康保険を使って医療機関で治療を受けた場合の治療費は,全額自己負担となる。

ただ,労災ならば,治療費だけでなく,後々障害給付や遺族給付,傷病年金,介護給付などの給付を受けることが問題になりうるので,労災保険指定医療機関を受診し,労災の認定を受けておくべきだろう。

また,質問者がへき地診療所の一人勤務医として純然たる公務員として勤務されているのか,委託開業などで開設者兼管理者となっているのか委細が不明であるが,前者ならば,自費診療となる場合にも,本来勝手に診療所の資材を費消することは法的に許されず,本来費用負担は精算されるべき性質となる。もちろん,雇用主の市町村と福祉的配慮から自治体負担にする合意があれば,横領にも窃盗にもなることはない。

以上の諸点を検討し,自費か保険請求か,はたまた他医を受診すべきかを判断されるべきであろう。

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