今回は北朝鮮問題や加計学園の問題で議論にならなかったが、総選挙があると二世議員のことが時に話題になる。医者の世襲についても時に取り上げられる話題である。
医者の世襲制は職業選択の上で均等な機会を提供せず、より広い人材の発掘や医学の進歩のためにマイナス面がある、との主張がある一方で、投資された資本の継続的な利用や地域医療への貢献の視点からプラス面もある、とも考えられている。最近は医学部の定員が増員され、私立医科大学の授業料も安くなって、医学部への門戸は以前に比べると広くなっているため、様々な環境で育った多様な学生が医師をめざして医学部に入学している。医者の世襲についてはそれほど論議されることが少なくなったが、医師の師弟が医師になることのもうひとつの利点がearly exposureではないだろうか。幼少期から様々な医療の現場で働いている家族やスタッフの姿を身近で見ることが、医師の働き方、考え方、そして患者を優先する価値観を自然に学ぶことにつながっているとの見方がある。
以前から医学教育の初期に、医療現場を経験あるいは観察することによって、医療者としての自覚を育てようとするearly exposureの考えがあって、教育現場では広く実践されてきたが、最近強調されている医師のプロフェッショナリズムを育てる教育の手始めは、まずここにある。医師のプロフェッショナリズムとは、単に専門性の高い知識や技能を持ち合わせているということではなく、医師の倫理性、社会性、公益性などが身についていることが必要とされている。その教育は座学で学べるものでもなく、実際に医療に接してみて体得するもの、あるいはもう少し手前の、人と人との関係の中で会得されるべきものかもしれない。
身近にロールモデルがいることが教育上有効であるとされているが、その意味でのearly exposureという観点から、幼いときから医療を身近に接している二世には有利かもしれない。もちろん、違った環境でも十分にこの感覚を備えている学生も多いことは、単に医療環境への早期曝露というよりも、さらに基本的な家庭環境に負う部分も大きいと考えられる。人の立場を理解できる教育というのは、医療の関係者だけの問題ではない。逆に、医師のプロフェッショナリズム教育というのは、さらにそれを越えて、より踏み込んだ教育が必要なのかもしれない。