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老犬とともに[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.125

手島昭樹 (大阪府立大阪国際がんセンター放射線腫瘍科主任部長・大阪大学名誉教授)

登録日: 2018-01-08

最終更新日: 2017-12-21

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末娘が小学生の頃に懇願されて渋々小型犬を飼いはじめ、彼女が独立して責任放棄して家を出てしまった後は、われわれ夫婦が世話を続けている。現在17歳7カ月の老犬となり、頻回に体調を崩してその都度、かかりつけの獣医の世話になっている。わが老犬は、人間でいえば86歳くらいらしく、先日も誤嚥性肺炎になった。X線検査で右肺中葉の肺炎を指摘され、朝夕の抗菌薬の点滴と栄養剤投与を3日間、半日入院で行い、何とか回復した。今まで何度か肺炎を患ってきたが、加齢が進み、発症の間隔が狭まり、回復のスピードも徐々に遅くなっている。咀嚼・嚥下能力と脚腰もかなり弱ってきている。幸い、認知症はないようである。

今回、犬も右中葉肺炎が起こりやすいことや検査値の動きを獣医に教えてもらい、解剖学的にも病態的にも人間に類似していることに少なからず感銘を受けた。遺伝子数は人間とほとんど変わらないことから推測するに、この類似性を超えて人間と犬との違いは、知性を含む多くにおいて人間が勝っているという単純なことではないように思える。犬は明らかに他より優れている嗅覚以外にも、未解明の優位点を多数有しているのではないだろうか。永らく一緒に暮らしていると、人間の感情の起伏を人間よりも正確に読み取れているような気がする。たまに畏怖といっていいような感覚にとらわれることがある。

一方、われわれ人間には、他国をミサイルで恫喝したり、国民を飢えさせたり、領土を掠め取ろうとしたりする、悪い輩を挙げればきりがない。人間を万物の長とした神様はかなり後悔しているのではないだろうか。とは言え、わが老犬もこの人間が長年かけて開発してきた優れた医療のお陰で、何度か窮地を脱することができている。大変ありがたいことである。医療が最もhumaneな領域と改めて気づかせてくれる。もうすぐ自分たちが経験するはずの老後を前もって教えてくれている目の前の愛犬に感謝しつつ、当分、獣医通いと介護を続けてゆきたい。より良い医療を提供できる医療人でありたい、という初心にも立ち帰らせてもらっている。

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