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心に留まった人生の言葉[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.130

赤水尚史 (和歌山県立医科大学内科学第一講座教授)

登録日: 2018-01-08

最終更新日: 2017-12-21

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座右の銘というと「常に身近に備えて朝夕の戒めとする格言」(『広辞苑』より)であり、ごくわずかな限られた言葉の印象が強い。人によっては改めて座右の銘は何ですか、と聞かれて即答できない方も少なからずおられるのではないかと思う。しかし、好きな言葉とか励ましにしている諺などは、すべての人にあるのではないか。人によって座右の銘や好きな言葉が異なるように、同じ人でも置かれた環境や状況の変化によって、これらの言葉が変わることもあろう。逆境の時には「人間万事塞翁が馬」という言葉が心にしみるであろうが、順調な時には「実るほど頭の下がる稲穂かな」という言葉がふさわしいかもしれない。実際、諺でも一見相矛盾するものが多々ある。たとえば「先んずれば人を制す」という諺があれば「急がば回れ」という諺もある。

このような言葉との出会いには、人それぞれに様々な経緯があろう。私自身の経験を述べると、大学院を卒業して米国留学するときに父が色紙に揮毫してくれた言葉は、「初心忘るべからず」と「閑中有忙、忙中有閑」であった。これらの言葉は、米国のアパートのリビングルームにずっと飾っていた。留学中は毎日これらの言葉を見ながら過ごし、精神的な安定を得ることができたように思う。また、結婚式で媒酌人の恩師から頂いた言葉は「一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うること勿れ。只一燈を頼め」であったが、その後の人生の苦境時にいつも思い出す。

これらの言葉は人から与えられた言葉であるが、自分から探し求めて得た言葉もある。ある面接の機会で、「リーダーとは何か。リーダーになるためには何が必要か」という問いを受けたことがある。その時には即座に返答ができず、その後しばらく自問自答した結果、「志を持って事に臨み、その成就を果たすことに全力を傾ける」ことこそがリーダーである、と考えるようになった。私が現在の地に赴任したとき、「志」を父に揮毫してもらい、以後ずっと私の教授室に掲げて初心を忘れないようにしている。

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