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肝臓専門医として 養生訓に学ぶ時代に[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.78

橋本悦子 (東京女子医科大学消化器内科教授)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-21

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私は肝臓専門医として、多くの患者さんを肝炎ウイルスによる肝硬変・肝細胞癌で見送りました。近年では新薬の開発によって、経口薬のみで肝炎ウイルスを排除できる時代になり、医学の進歩に感謝するとともに、治療薬開発前に亡くなられた方々を思い出すと残念で、心よりご冥福をお祈りいたします。

肝炎ウイルスの進歩はまさに昭和30年代まで多くの若い尊い命を奪った結核を彷彿とさせます。来年定年を迎えて、患者さんを安心して次の先生に経過観察をお願いするときは、「私も卒業、患者さんも病気から卒業、後は、半年ごとのチェックだけ」と言って明るく申し送ることができることが大変嬉しい今日この頃です。

私は多くのウイルス性肝障害の患者さんとは真摯に向き合いましたが、アルコール性肝障害の患者さんに対しては「禁酒・節酒のみが治療です。ご自身で治してください」と冷たい対応です。禁酒が唯一の治療なのに、飲酒を続けて来院して肝臓が悪いことを再度認識しても何の意味もないのに、なぜ患者さんが来院されるのか不思議に思うこともありました。そして、アルコール依存症の多くの患者さんは、家族からも見放され、自宅で一人死亡され、警察から病状確認の電話が入るとこんな感じでした。アルコール性肝硬変の患者さんの治療で学んだことは、腹水は治療しない、ということです。利尿薬で腹水をコントロールすると、また、飲酒して結局余命が短くなってしまいます。アルコール性肝障害は、心の病でもあります。

さて、平成の時代になっての肝障害の問題は、肥満による非アルコール性脂肪性肝疾患や非アルコール性脂肪肝炎(NAFLD/NASH)からの肝硬変・肝細胞癌です。下戸の私には、禁酒ができない患者さんの気持ちはまったくわかりませんでしたが、肥満によるNASHで体重のコントロールのできない患者さんの気持ちはよくわかります。アルコール性肝障害やNAFLDなど、自分で治す肝臓病の時代になりました。

正徳2(1712)年に83歳の儒学者、貝原益軒が実体験に基づいた健康法の指南書『養生訓』を学ぶ時代になった、と感じる今日この頃です。

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