東京都では、2020年に向けて着々と競技場の準備が進んでいるが、同時に外国人旅行者受け入れの機運も高まっている。日本での医療を希望して来日する患者向けのメディカルツーリズムも、民間、公的機関を含めて広がりつつある。私たちの病院でも国際医療部を立ち上げて、外国人患者を積極的に受け入れる方向で準備している。特に受診時の通訳については、テレビ電話による通訳サービス会社と契約し、医療費などの説明に活用している。英語を含めた多言語対応で、改めて電子機器の恩恵を感じさせてくれる。
問題は、医療費の未払いである。外国人旅行者の3割は海外旅行保険なしに来日するので、ひとたび重症傷病にかかるとすぐに医療費問題に発展する。旅行者が渡航先で急病になって病院に受診すれば、人道的な立場から診療が行われることになる。特に国立大学病院では、救急車に乗ってくれば、ほとんどの場合、受け入れることになる。
昨年になって2件こうしたケースがあった。1例は東南アジアからの20歳代の女性で、秋葉原で心筋梗塞となり救急搬送された。ERセンターでのPCPS治療に加えて、ステント挿入、バイパス手術を行い、不整脈に対するカテーテルアブレーションを2回追加した。2週間ほど意識不明の状態であったが、2カ月半後には歩いて帰国できた。この間、ICUでの治療は1カ月以上に及んだ。
もう1例は、パレスチナからの透析患者である。母国でも透析を受けていたようであるが、来日後具合が悪くなったとして、当院に救急搬送され、入院2カ月が過ぎた。当院に搬送される前に、外国人患者受け入れ認証制度に登録されている2つの大病院で断られている。
2人の患者はともに無保険で、高額な治療費は完済見込みがない。東京都の公的な補償は、入院2週間以下、金額にして200万円までにすぎない。外国人患者の受け入れは、病院窓口での外国語対応というような単純な問題に終わらない。医療費未払い問題は2020年に向け、行政として早急に対応すべき課題である。