株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

アルコール依存症の今昔[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.82

齋藤利和 (札幌医科大学神経精神医学講座名誉教授・幹メンタルクリニック院長)

登録日: 2018-01-05

最終更新日: 2017-12-22

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

これまで、アルコール依存症と言えば、酒を飲み続け、暴力的な言動で社会生活、家庭生活が崩壊し、臓器障害も重篤で精神医療でも扱いづらい存在であった。しかし、最近は様相が変わってきた。厚生労働省の研究班の調査でWHOの診断基準に基づいて推計されたアルコール依存症者数は、現に治療を受けている患者数の10倍以上と報告され、これまでは問題とならなかった軽症のアルコール依存症者が注目されている。現に私のクリニックでも、アルコール依存症者の3割は家庭生活、社会生活を営み、臓器障害も重篤でない人々である。

さて、職場の精神保健(メンタルヘルス)の中でうつ病は中心的な課題であり、長期療養者の多くを占め、自殺者も少なくないことが知られている。しかし、うつ病とアルコール依存症の併存率が高いことは案外知られていない。我々の調査でもアルコール依存症の約半数に中等症以上の抑うつ状態が観察され、依存に至らないアルコール使用障害がみられるうつ病患者でも、治療反応性の低下、寛解率の低下、抗うつ薬の薬効の低下が認められている。

既に述べたように、わが国ではアルコール依存症者の9割以上が医療の外に置かれている。したがって、アルコール依存症を併存するうつ病の割合も過小に考えられている。その上、アルコール依存に至らないアルコール使用障害の患者はその5倍もおり、うつ病と併存すれば、抗うつ薬の無効化をはじめとしてうつ病の遷延、難治化を起こしていることが容易に想像される。したがって、遷延化や重症化し、薬剤にも反応が乏しいうつ病者の陰にアルコール関連問題が隠れている可能性がある。

アルコール依存症のこれまでの治療ゴールは断酒であった。しかし、軽症のアルコール依存症やアルコール使用障害の場合、必ずしも治療ゴールは断酒ではなく、簡易介入で飲酒量の低減を図るだけで効果が得られることも多い。さらに、断酒をめざす場合も、自助グループと連携すれば特別な治療手技は必ずしも必要ではない。うつ病の背後にあるアルコール関連問題を見逃すことなく対処することが求められている。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top