(岐阜県 K)
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)の感染経路としては,性行為感染に加え,母乳を介した母児感染,輸血・針刺しによる感染の3種類が主に知られています。そのウイルス学的感染様式は,同じくCD4陽性T細胞を主な標的とするヒト免疫不全ウイルスとは異なっており,HTLV-1は生きた感染細胞を介してのみ感染します。通常HTLV-1ウイルス粒子は感染者の血液中に検出されません。HTLV-1はウイルス自体の複製よりも感染細胞の増殖によってそのコピー数を増加させており,感染細胞が非感染細胞に接着し,ウイルス学的シナプスを形成することによってウイルスを伝達しています。このようにHTLV-1における感染の成立には細胞と細胞との接着が必須であり,この感染様式はcell-to-cell感染と呼ばれています1)。
母児感染はHTLV-1総合対策による妊婦の抗HTLV-1抗体検査の普及によって,その頻度は徐々に減少してきています。また,1986年以降は抗体スクリーニング検査の導入により,輸血による新たな感染はわが国において確認されていません。しかし,性行為によるHTLV-1の水平感染の実態については,いまだ十分に明らかになっていない現状です。
ご質問にもあるように,性行為によるHTLV-1の感染は主に男性から女性へ起こります2)。HTLV-1キャリアである日本人719人(男性275人,女性444人)およびその家族を対象とした研究では,10年間での夫婦間の感染率は,夫から妻への感染が60.8%,妻から夫へは0.4%であったと報告されています3)。これらの知見は,夫婦間の感染においてもそのほとんどがHTLV-1キャリアの男性から女性への感染であるという事実を裏付けていますが,一方でHTLV-1キャリアの女性から男性へと感染するケースも存在することを示しています。
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