小児の外科手術の中で最も頻度が高く,外鼠径ヘルニアが大半を占める
嵌頓ヘルニアは1歳未満が約2/3を占め,特に生後6カ月未満の時期に起こりやすい
手術は開存した腹膜鞘状突起の直接閉鎖が行われ,成人で行われている鼠径管の補強や人工補強材を用いた手術は行われない
わが国では鏡視下に腹膜鞘状突起を腹腔から直接閉鎖する腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(LPEC)法が小児鼠径ヘルニア手術の約1/3を占めるようになった
幼少であるほど鼠径管は短く,その解剖学的特性を熟知していなければ膀胱損傷など重大な合併症をきたす
鼠径ヘルニアは小児外科疾患の中で最も頻度が高く,小児外科手術の最も代表的な疾患である。2011年のNational Clinical Database(暫定値のみ報告)によると,小児外科で行われた16歳未満の全手術約4万6000件中,鼠径ヘルニア類縁疾患手術が1万9000件と4割近くを占めていた1)~3)。小児における外鼠径ヘルニアの発生率は0.8~4.4%と報告されている。小児の鼠径ヘルニアのうち,内鼠径ヘルニアの発生率は小児全鼠径ヘルニアの0.2~0.5%,大腿ヘルニアでは0.4~1.1%ときわめて少なく,ほとんどは外鼠径ヘルニアである。以下,外鼠径ヘルニアを中心に述べる4)。
外鼠径ヘルニアは,発症年齢は1歳未満の症例が全体の1/6を占め,男女比は3:2と男児にやや多い。発生部位は男児では右側が60%,左側が30%,両側が10%と右側発生が多い。低出生体重児では鼠径ヘルニアの発生率が高く,1500g以下の低出生体重児では6人に1人5),1000g以下の低出生体重児では3人に1人に認める。また,女児が男児の2倍と多い。低出生体重児ではヘルニア囊が非常に大きく,きわめて薄いため,小児外科専門施設での治療が必要である。術後に無呼吸をきたす症例が多く,抜管後は注意を要する。晩期合併症も多く,再発が8.6%,精巣の萎縮が1.1%との報告がある6)。
外鼠径ヘルニアは胎生期の腹膜鞘状突起の開存(patent processus vaginalis)が原因である。腹膜鞘状突起は胎生3カ月に腹膜の一部が内鼠径輪から鼠径管内へと突出することにより形成され,男児では胎生7カ月以降の精巣の下降に関与している7)。女児でも子宮円索が大陰唇方向に向かう腹膜鞘状突起に相当するNuck管が形成される。通常,胎生36~40週に腹膜鞘状突起の遠位端は精巣の鞘膜(tunica vaginalis)となり,近位側腹膜鞘状突起は閉鎖する。この閉鎖する過程で腹圧や腹腔内の液体成分の貯留などの因子が加わると,腹膜鞘状突起が閉鎖開存したままになり,ヘルニア囊が形成される。そして,腹膜鞘状突起の開存の程度により,内鼠径輪から陰囊,陰唇までの種々のヘルニア囊となる。また,腹膜鞘状突起が分節的に閉鎖すると末梢側に水腫として貯留し,男児では陰囊水腫(水瘤)や精索水腫(水瘤),女児ではNuck管水腫となる(図1)4)。
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