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(3)先天性横隔膜ヘルニア─治療の現状と新展開 [特集:小児ヘルニア治療の現状と新展開]

No.4805 (2016年05月28日発行) P.38

臼井規朗 (大阪府立母子保健総合医療センター小児外科主任部長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-24

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  • かつて不良であった新生児先天性横隔膜ヘルニアの生命予後は近年急速に改善している

    軽症例も含め,新生児先天性横隔膜ヘルニアの70%以上は出生前診断される

    診療ガイドラインではgentle ventilationと呼ばれる呼吸管理を推奨している

    重症例では術後慢性期に様々な合併症や後遺症を発症するので長期フォローアップが重要である

    1. 予後の改善がみられる先天性横隔膜ヘルニア

    新生児期に発症する先天性横隔膜ヘルニア(以下,本症)は,かつてきわめて予後不良な疾患であった。しかし,出生前診断の普及や呼吸循環管理の進歩に伴って,近年生命予後は急速に改善している。本稿では,本症に対して現在行われている治療の実際と治療成績の現状を中心に,今後の新展開について述べる。

    2. 先天性横隔膜へルニアの病態

    本症は,発生異常によって横隔膜に生じた先天的な欠損孔を通じて,腹腔臓器が胸腔内に脱出する疾患をいう。最も頻度が高く臨床的意義が大きいのは,ボホダレク孔ヘルニアであるため,単に先天性横隔膜ヘルニアといえば,ボホダレク孔ヘルニアを指す場合も多い。
    発生頻度は2000~5000出生に1例1)で,約95%は新生児期に発症し,約5%が乳児期以降に発症する。腸回転異常を除けば60~70%は本症単独で発症するが,約30%に様々な先天奇形を伴う。約15%は複雑心奇形や多発奇形症候群,18トリソミーなどの重症染色体異常を合併しており,非常に予後不良である2)3)。約90%は左側の横隔膜に発生し,欠損孔の中心は横隔膜の後外側部に存在する。横隔膜欠損の程度は症例ごとに様々で,裂隙程度の小さいものから全欠損に至るまで幅広い。脱出する腹腔臓器は小腸,結腸,胃,肝臓,脾臓などである。症例の重症度は欠損孔の大きさに依存し,新生児期を無症状で経過する軽症例から,出生後短期間で死亡する最重症例まで非常に幅広い。
    胎児期に脱出臓器によって肺が圧迫されて,子宮内での胎児呼吸様運動が阻害されると,肺の発育が抑制されて肺低形成を伴うことになる。肺低形成は患側肺のみならず対側肺にも及ぶ。このような肺では,肺動脈が機能的攣縮しやすく新生児遷延性肺高血圧症(primary pulmonary hypertension of neonates,persistent pulmonary hypertension of newborn:PPHN)を発症しやすい。ひとたびPPHNを発症すると,動脈管や心房で右左短絡が生じるため,体静脈血は酸素化されないまま全身の動脈に流れる。新生児例は,チアノーゼ,徐脈,呼吸促迫,陥没呼吸,呻吟などの呼吸困難症状で発症し,X線検査によって診断される(図1)。一方,乳児期以降の発症例では,嘔吐や腹痛などの消化器症状を示すことが多い。X線検査で偶然発見される無症状例もある。
    近年では多数の症例が胎児超音波検査によって出生前に診断されるが,このような症例ではあらかじめ治療計画を立てた上で計画分娩を行う。手術は一般に呼吸循環状態の安定化(stabilization)を確認してから行われる。わが国では,生翌日から生後5日目頃までに行われる場合が多い。開腹して胸腔内に脱出した臓器を腹腔内に還納し,横隔膜の欠損孔を修復する。欠損孔が小さければ直接縫合閉鎖,大きければPTEFなどの人工布をパッチとして用いて修復する。
    新生児例の生存率は,重症例の増加のため長年改善しなかったが,近年,出生前診断の普及と呼吸循環管理の進歩によって予後が向上した。2011年に行われたわが国の全国調査では,新生児例全体の75%が生存退院し,重篤な合併奇形や染色体異常を伴わない本症単独例に限ると,84%が生存退院している2)3)。ことに,出生後24時間以降に発症する軽症例ではほぼ全例が救命されている。

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