オンライン診療は、外来や在宅といった対面診療との組み合わせによって、より効果を発揮すると期待される。2018年度診療報酬改定で新設された「オンライン診療料」の算定要件でも、対面とオンラインを組み合わせた療養計画に基づいた診療を行うことを求めている。連載第2回では、オンライン診療の提供により治療の継続率向上を目指すクリニックの事例を紹介。“第4の医療”としての活用法と効果について考えてみたい。【毎月第1週号に掲載】
東京都江東区にある小野内科診療所では、昨年7月からオンライン診療を導入した。きっかけとなったのは高齢の男性患者Aさん。Aさんは勤務先が同院に近かったことから10年以上の通院歴がある。自宅まで電車で数十分かかり、待ち時間が見通せないなどの理由から、リタイア後は定期的に外来に通うことが苦痛になってしまったが、「かかりつけ医を変えたくない」との思いが強く、院長の小野卓哉さんは外来での対面診療とオンライン診療の組み合わせを提案。Aさんもこれに同意した。
オンライン診療は予約制のため待ち時間への懸念は解消され、薬が切れることもなくなった。時間にゆとりのある時に通院するという形で、以前と変わらない診療が継続できている。小野さんが重視したのは、これまでの診療の延長として患者に負担をかけず、一度築いた信頼関係を持続させるためにオンライン診療を実施するという点だ。
この観点から小野さんは、(株)インテグリティ・ヘルスケアの「YaDoc」(https://www.yadoc.jp/)というオンライン診療システムを導入した。同社は医療機関および患者に対し、システム導入を支援するサポートデスクを整備しており、電話やメールでの問い合わせが可能。費用面における患者負担はなく、患者に勧めやすい。導入する医療機関は初期費用・月額利用料ともに無料(4名以上の患者が利用できるなどの有料プランは、月額3万円)となっている(表)。
YaDocの機能面での主な特徴は、ビデオチャット等による「オンライン診察」に加え、患者の日常の状態変化を継続的に捉える自宅での「モニタリング」と診察時の主訴を把握するために外来の待ち時間に行う「オンライン問診」を重視しているところだ(図)。
小野さんは現在、オンライン診察とモニタリング機能を利用。YaDocのモニタリング機能について、「医師がモニタリング機能のグラフで視覚的に症状の変化を把握できることはもちろん大切ですが、患者さんにとっても良い効果があると思います。自分は何が問題で治療を受けているのかという理解が深まり、例えば薬を飲まなかった時に数値が悪化したことが診察時に分かるので服薬アドヒアランスの向上にもつながります」と語り、効果を実感している。
YaDocのオンライン問診は、外来の待ち時間にタブレットを使い疾患ごとの質問に回答するシステム。問診は、患者の症状を把握するために最も大事にしなければいけない部分だが、外来で徹底して行おうとすれば時間がかかり、他の患者を待たせてしまう懸念がある。また医師に対して、わずかな時間で症状のすべてを伝えることが難しい患者もいるだろう。オンライン問診は事前に回答するため、日々のモニタリング結果と合わせ、診察前に医師は症状を把握、診察に集中することが可能になる。じっくり回答できることから、患者の本音を引き出しやすい場合もあるようだ。
同院ではこのほか、糖尿病や高血圧症などの慢性疾患を抱える難病患者に対し、オンライン診療で慢性疾患の治療を行っているケースもある。男性患者Bさんの自宅は数分のところにあるが、難病の影響で歩行速度が遅く、通院するのがやっとの状態だった。そのため体調が悪い日は通院できず、薬も切れがちで糖尿病の状態が悪かった。オンライン診療開始後は、処方通りに薬を服用できるようになったことに加え、画面越しではあるが医師との定期的な会話を通じ、精神的にも徐々に前向きになったという。オンライン診療では医師と患者双方が画面を真正面から見る必要がある。Bさんのように、通常の対面診療よりコミュニケーションが取りやすいと感じる人もいるようだ。
オンライン診療開始直後は3週間おきだった通院とオンライン診療の間隔が、今では血糖のコントロールが改善したため1カ月に延びた。暑い日や寒い日に無理して通わなくて済むようになり、症状も改善している。
「この患者さんのように在宅に移行するまでは症状が悪化していないものの、外来に頻繁に通院するには負担が大きく、治療が中断されてしまうケースがこれから増えていくでしょう。対面とオンラインを組み合わせれば、外来と在宅の間にいるような患者さんをフォローできる可能性があると思います。地域の診療所は患者さんとの信頼関係で成り立っています。患者さんが治療の継続を希望しているのにこちらから一方的に『在宅か施設にどうぞ』とは言えません。オンライン診療はこうした患者さんの思いに応えるための有効なツールになると考えています」(小野さん)
オンライン診療を巡っては、18年度改定で「オンライン診療料」「オンライン医学管理料」などの点数が新設された。保険適用について小野さんは「点数の多寡はともかく、患者さんのために取り組んでいた医療が保険診療として認められたことは嬉しい」と語る。
一方、制度面での課題は残る。例えば同診療料の施設基準は、緊急時に「概ね30分以内」での対応が可能な患者が対象と明示しており、患者の通院時間が1時間を超えた場合は保険適用外となってしまうのだ。厚生労働省は「(こうしたケースを)想定して制度設計の議論をしていない」と本誌の取材に回答している。
次期診療報酬改定に向けては、不適切事例が起きない制度設計は維持しつつ、患者の多様な事情に対応できるように、オンライン診療の運用をさらに弾力化する議論が必要となりそうだ。