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2章-13:肩痛を有するスポーツ選手の末梢神経障害

登録日:
2021-12-19
最終更新日:
2023-06-22

画像所見はないのにもかかわらず,肩が痛い,そのような経験はないだろうか。特に,スポーツ選手における肩の痛みは,画像では問題がみられない症例が多い。明らかな筋力低下,筋萎縮,知覚障害などがみられれば診断は容易であるが,実臨床では疼痛だけが顕在化していることも少なくない。痛みの原因がわからず,曖昧な診断なまま,リハビリテーション(以下,リハビリ)で対応してもらうことが多いのではないだろうか。リハビリでは,「骨頭の求心性が落ちているので,はまるように動かしました」「棘下筋の滑走性が落ちているので,滑走を促したら痛みが取れました」「脂肪体の動きが悪く,引き出せるようにしたら痛みが取れました」など,イメージは湧くが,どうしても曖昧な治療に懐疑的になってしまう。その動きが良くなりなぜ痛みが改善したのか,目に見えない徒手的な要素のみでは,整形外科医にとっては理解できない。また,これらのリハビリを行っても痛みが取れない症例も存在する。そのような症例に遭遇したときに,一度考え直したいのが末梢神経のトラブルである。岩堀らは,肩関節周囲における神経障害で明らかな知覚・運動障害を伴わない場合があり,痛みだけが顕在化する症例も少なくなく,常に,肩関節周辺神経障害の存在を念頭に診察することが重要であると述べている1)
特にオーバーヘッドアスリートの肩痛・可動域制限などには,胸郭出口症候群,腋窩神経障害,肩甲上神経障害は多く存在する。画像診断ができない症例も数多く存在するため,見逃されやすい。本項ではこれらの障害について概説する。

胸郭出口症候群

1 はじめに

胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome;TOS)は,頚肋症候群,前斜角筋症候群,肋鎖症候群,過外転症候群の総称として,1956年にPeetら2)が提唱した疾患概念である。障害部位は斜角筋間,肋鎖間隙,小胸筋腱下であり,臨床的には上肢にしびれ・痛み・脱力といった運動・感覚障害があり,脊椎疾患では説明がつかないという除外診断から疑われる。そのため,いまだに一部の脊椎外科医から疾患概念自体が否定されることも少なくない。また,神経内科医の考えるTOSとスポーツ整形外科医の考えるTOSには若干の意見の違いもあり,この点も疾患概念を難しくさせている理由のひとつだと考える。
TOSは神経性TOS,静脈性TOS,動脈性TOSの3つに分類できる3)。実際には議論のある神経性TOSと外傷性神経血管性TOSをさらに分ける分類もあるが4),今回は簡略化するため障害部位の分類に絞って議論する。TOSのうち,神経性TOSは95%を占める5)。腕神経叢の圧迫型と牽引型,混在型などがあるが,スポーツ障害によるTOSの多くがオーバーヘッドアスリートにみられる圧迫型である。動脈性の多くは神経性を合併し,静脈性は2~3%と頻度が高くないこともあり6),いかに神経性TOSを診断できるかが重要である。また,後述する四辺形間隙症候群(quadrilateral space syndrome;QLSS)や尺骨神経障害を合併することもあり,神経が2箇所で圧迫されるダブルクラッシュ症候群の可能性も常に念頭に置きながら診療にのぞむ必要がある7)8)

2 医師による診断

診断は臨床症状,誘発テスト,画像検査を組み合わせて行う。神経伝導速度が異常を示すことは多くなく,症例に応じて施行する。スポーツ障害によるTOSの多くは,オーバーヘッドアスリートにみられる圧迫型のTOSであり,圧迫型の診断について詳述する。

臨床症状

臨床症状は肩痛,肩こり,頭痛,上肢の痛み・しびれ・だるさなど多彩である。頭痛などの症状は不定愁訴ととらえられがちであるが,術後に頭痛が取れる症例は多く,関連は間違いなくあると考える。また,上肢のだるさやしびれを訴えることが多く,前腕・手尺側部の症状が中心の場合はTOSを念頭に置く。これは第1肋骨側のC8・Th1神経根の障害の影響と考えられている。
次の所見を重視しながら診療に当たっている。

腕神経叢の圧痛(斜角筋,肋鎖間隙,小胸筋)
NTT(尺骨・正中・橈骨神経)で2つ以上の陽性
小指対立筋,総指伸筋の筋力低下
Wright testで橈骨動脈の拍動減弱
Roos testで1分以内の保持不能
Roos test変法での尺骨神経・腋窩神経領域の感覚低下

鑑別

頚椎椎間板ヘルニアによるC8・Th1神経根の障害,肘部管症候群さらにはPancoast症候群9)など,明らかな画像診断が可能な症例は見逃さないように注意する必要がある。神経伝統速度は異常を示すことは少なく,症例に応じて思考する。

誘発テスト

誘発テストには,Morley test10),Allen test11),Adson test12)など様々あるが,これらはあくまでも補助的な検査である。神経障害の診断には,圧痛,筋力低下,知覚障害を重視し,血管性も合併しているシビアな症例は挙上位での橈骨動脈の拍動の有無を確認する。
神経の疼痛誘発は,圧迫をかけること(compression)と伸張させること(tension)である。圧痛のことをnerve compression testと定義すると,神経を牽引するnerve tension test(NTT)も行っている。NTTはSLRや大腿神経伸張(femoral nerve stretching;FNS)テストを代表とする下肢の神経障害に対して有名であるが,上肢にも存在する。Upper limb tension test13)と名付けられており,橈骨神経・正中神経・尺骨神経の伸張と疼痛の関連をみるテストである(図1)。上肢末梢神経の伸張テストにおける張力を測定した屍体研究によると,腕神経叢(神経束)レベルまで張力が伝達されることが明らかになっている。そのため,末梢から順に張力をかけて,どの肢位で痛みが誘発されるかを確認することで,障害部位を絞ることが可能である。たとえば,尺骨神経であれば,手関節回内・背屈→肘関節最大屈曲→肩関節外転→頚部側屈の順に尺骨神経を伸張させ,疼痛が出現した肢位周辺での神経障害を疑う。1つの末梢神経だけでなく,複数の神経で陽性になるとTOSを疑うことになる。

さらに,筆者らは症状誘発時の知覚障害や筋力低下も意識している。特に,Roos testの際に前腕・手尺側,腋窩神経領域の感覚低下,小指対立筋,小指の深指屈筋腱,総指伸筋の筋力を確認している。これを筆者らはRoos test変法と名付けている(図2)。通常の肢位では筋力低下,知覚異常はなく,Roos testを行っているときに,筋力低下や知覚異常がみられる場合は,積極的にTOSを疑っている。Roos test変法はオリジナルの検査であるが,非常に有用であり,今後有用性を科学的に証明していく必要がある。後に説明するQLSSに対して,症状を誘発する肢位での感覚低下テストを以前報告しており,それをヒントに作成した検査である14)

画像検査

画像検査では,MRIで脊柱管周辺の障害を除外し,単純X線像・CTで頚肋を代表とする胸郭出口部の形態異常,Pancoast症候群の有無などを確認する。血管造影CTでは,血管性TOSで動脈や静脈の圧迫像が検出される(図3)。腕神経叢造影では,腕神経叢の圧迫・牽引所見が確認できるようであるが,積極的には行っていない。

多くのTOSは画像で異常が出てこないため,画像検査はあくまで鑑別診断の除外や重篤なTOSの診断に用いている。

3 治療方針

我々医師ができる治療としては,安静の指示,理学療法の指示,内服,手術,そしてインターベンションである。治療は理学療法が基本であり,肩甲骨胸郭のアライメント不良の改善,鎖骨の上方回旋不良の改善など様々であるが,今回は割愛する。
Roos testで即座に血流が途絶する症例は手術を選択したほうがよいこともあり,その際は第1肋骨切除などが適応となる15)。斜角筋など解剖学的な異常がある症例もあり,症例に応じた手術になる。
保存療法を安易に引き伸ばすといつまでも疼痛が改善しないこともあり,手術ができる施設に紹介することを躊躇してはならない。
上記の治療に加え,近年ではエコーガイド下インターベンションが盛んに行われるようになっている16)17)。安易な注射は禁物であるが,理学療法と組み合わせることで,症状の改善がみられることが多い。以下に,代表的なエコーガイド下インターベンションを紹介する。

4 エコーガイド下インターベンション(C5〜C8)

斜角筋間での腕神経叢のハイドロリリースについて紹介する。描出方法は二通りある。鎖骨の上で腕神経叢の束を描出してから近位に上がる方法と,近位でC5の前結節と後結節を確認してから遠位に下ろしていく方法である。どちらも,側臥位あるいは半側臥位で頚部にプローブを当てる。後者の当て方が一般的で,こちらを覚えると神経根ブロックにまで対応できる。
C5~6の前結節と後結節を確認し,そこから出てくる頚椎の神経根を描出する(図4)。C7には前結節が存在せず,後結節のみである(図5)。

C7椎間孔から出てくるC7神経根とその前方に存在する椎骨動脈を確認する。さらに遠位へプローブを下ろし,第1肋骨の上に存在するC8を描出する(図6)。ただ,C8は深い部位なので,描出困難な例も存在する。C5~8が直線上に並び,その前後に前斜角筋,中斜角筋,後斜角筋が描出される。注意点としては,前斜角筋の前方には横隔神経が走行し,拍動する血管と横走する横隔神経が確認できる(1章-1 図3参照)。そのため,C5の上に薬液を注入する際に,局所麻酔薬が多いと横隔神経がブロックされてしまうことを認識しておく必要がある18)。また,中斜角筋の中には肩甲背神経,長胸神経が走行するため,穿刺の際になるべく傷つけないように針を避ける必要がある。斜角筋レベルで局所麻酔薬を多く入れると自律神経もブロックされ,Horner徴候(眼瞼下垂,縮瞳など)が出現する19)。また,第1肋骨周囲には星状神経節が存在するため,局所麻酔薬を混ぜるとHorner徴候は必発である。逆に考えると,C8ブロックと星状神経節ブロックを同時に行うことができる。そのため,上肢をターゲットにした星状神経節ブロックを併用したい場合は,頚長筋内のブロックではなく,C8と第1肋骨上の間でブロックを行うとよい(図6)。薬液は1%局所麻酔薬(リドカイン)1mLと水溶性のステロイドを混ぜたものを使用している。

また,C7・C8の周囲への注射の際には,椎骨動脈がエコー画面に見えてくるが,必ずドプラモードで確認した後に注射を行う。椎骨動脈の誤穿刺は危険であるため,この治療はある程度エコーガイド下インターベンションに習熟した者が行うべきである。
また,プローブと穿刺部位が近づき,穿刺角度が急峻になると,針の描出が困難になる。そのため,針の角度がつきすぎないようにプローブから離して穿刺するとよい。描出のしにくさ,深さ,注意すべき血管・神経などが多く存在し,C8の注射は難度が高いので慎重に行う。

腋窩神経障害

1 はじめに

腋窩神経は第5・6神経根から起始し腕神経叢後束から分岐して,外側が上腕骨近位端,内側が三頭筋,上方が小円筋,下方が大円筋に囲まれる四辺形間隙(quadrilateral space;QLS)を通過する。肩甲骨外側で前枝と後枝に分枝する。前枝は通過後に上腕に巻きつくように三角筋前部と中部を支配する。後枝は小円筋の筋枝,三角筋の後部への筋枝,上外側上腕皮神経と分かれる。上外側上腕皮神経は前枝と誤解されやすいが,後枝の分枝である20)1章-1 図3参照)。腋窩神経のentrapmentはCahillらが四辺形間隙症候群として手術成績を報告している21)。このQLSでentrapmentされる原因としては,オーバーヘッドスポーツで肩外転外旋に伴い大円筋・小円筋が緊張することにより圧迫障害を起こすとされている22)23)。加えて,Benett骨棘やfibrous band,さらにはparalabral cystなどによる圧迫も報告されている22)~26)
そのため,スポーツ障害における臨床症状の多くは肩外転外旋位での肩後方の痛みである。これは腋窩神経後枝の上外側上腕皮神経の知覚領域である。ただ,腋窩神経の前枝は肩峰下滑液包,上腕二頭筋長頭筋腱(long head biceps;LHB)にも分布しており,後方だけでなく前方の痛みを生じる可能性があることも念頭に置くべきである20)

2 医師による診断

診断は臨床症状,誘発テスト,画像検査,ブロックテストを組み合わせて行う。

臨床症状

重度の障害であれば,三角筋麻痺による挙上障害を訴える。しかし,実臨床ではそのような症例は少なく,肩外側のしびれや肩後方の痛みを訴える例が多い。

誘発テスト

特に肩後方のQLSの圧痛,いわゆるnerve compression testが陽性であると,まずQLSSを疑う。肩外転外旋動作もまた,QLSが狭くなることによる間接的なnerve compression testであるが,その他の肩の障害でも痛みを生じることがあり,特異性が高い検査ではない。
また,酒精綿を用いた腋窩神経領域の感覚検査を行う。知覚障害の陽性率は高いが,念のため外転外旋位で症状を誘発した状態でも知覚障害を確認する。安静時陰性でも,外転外旋位の症状を誘発した状態で陽性になる症例も存在するためである14)
腋窩神経のnerve tension testはオリジナルの検査であるが,末梢側から順に肩関節内旋→外転→伸展の方向へ関節を誘導し,腋窩神経を末梢側に伸張させて症状を誘発している(図7)。持続的な伸張による痛みや違和感を拾うことができる。神経滑走においては,検査であり治療につながる有用な方法である。症例としては少ないが,稀に小円筋の筋力低下までみられる重症例もあり,小円筋の筋力は確認する必要がある。

画像検査

画像検査では,X線やCT,エコーを用い,Bennett骨棘を確認する。また,para-labral cyst,さらにはその他の腫瘍性病変がないかなどをエコーやMRIを用いて確認する(図8)。また,後上腕回旋動脈の圧迫所見を3D-CT angiography,MRI angiographyで調べる方法もあるが,健常でも途絶することがあり臨床的意義は不明である27)28)。神経伝導速度に関しても有用性は明らかではない27)

ブロックテスト

ブロックテストは有用であり,神経伸張テスト同様に,治療であり診断の側面も持つ。診断に迷う際には積極的にブロックテストを併用するとよい。岩堀らは後方を主体とした肩痛,QLSの圧痛,腋窩神経領域の知覚障害,ブロックテストを重要視している1)。筆者らはブロックテストの前に,ある程度診断を確定するため以下の方法で診断している。

QLSの圧痛
知覚障害
肩外転外旋時の疼痛
肩外旋外旋時の知覚障害
腋窩神経のNTT
小円筋の筋力低下

知覚障害や筋力低下がある場合は診断が容易であるが,知覚障害がない場合は,圧痛(NCT)とNTTがともに陽性かどうかを重要視している。画像診断が可能なことは滅多にない。診断に自信が持てない場合は診断的治療として,ブロックテストを用いている。

3 治療方針

治療としては,TOSと同様に,安静の指示,理学療法の指示,内服,手術,そしてインターベンションである。理学療法では肩甲胸郭機能改善だけでなく,三頭筋,小円筋,大円筋のリラクセーションや,腋窩神経の滑走性改善を図る。
手術成績は良好であるようだが29),QLS単独で手術を勧めた経験は筆者らにはない。エコーガイド下インターベンションは著効することが多く,筆者らは後述する注射を多用している。

4 エコーガイド下インターベンション

明らかなQLSSだけでなく,3rd内旋制限,外転制限などにも効果的で,オーバーヘッドスポーツに最も頻用される注射である。肩関節下垂位で,プローブを肩後方から当てる方法が一般的である30)。小円筋,三角筋を描出し,それらに囲まれた脂肪組織を描出する。動脈と並走するように腋窩神経が走行するため,この脂肪組織に注射を行うと,同時に腋窩神経の前枝に注射することが可能である(図9)。ただ,この方法ではQLSの遠位で注射を行うことになり,QLSを的確に注射するため以下の方法で注射を行っている31)

肩関節を可能な限り外転した状態で,腋窩からプローブを当て,小円筋,三頭筋,大円筋,骨頭を描出する。骨頭の表層かつ大円筋よりに腋窩神経が観察できる(図10)。ドプラで血管を確認し,注射の際は外側上腕回旋動脈を傷つけないよう注意を要する。局所麻酔薬を使用する場合は,血管内に誤注入しないよう注意する。筆者らは0.02%局所麻酔薬(リドカイン)を5mL注入している。

肩甲上神経障害

1 はじめに

肩甲上神経は第5・6神経根から起始し腕神経叢の上神経幹から分岐して,肩甲舌骨筋の下を通りながら肩甲舌骨筋と並走する。肩甲切痕の手前で内側肩峰下枝と分枝してから血管と一緒に通過する(図1132)。この内側肩峰下枝は,烏口鎖骨靱帯と内側肩峰下滑液包に至る感覚枝である。肩甲切痕を通過した肩甲上神経は,棘上筋枝と外側肩峰下枝に枝分かれする。さらに下降して,棘窩切痕を通過したところで棘下筋枝と後肩甲上腕枝に分枝する。Entrapmentされる部位は肩甲切痕部や棘窩切痕部であり,上・下肩甲横靱帯の肥厚・骨化33),肩甲切痕部や棘窩切痕部の骨形態異常34),肩甲上神経周辺に発生するlabral ganglion,また,肩関節外転外旋から内転内旋を繰り返す投球動作などによる牽引・圧迫ストレスが原因と考えられている35)。そのため,スポーツ障害の肩甲上神経障害の多くはバレーボールや野球などのオーバーヘッドスポーツで起こる。特にバレーボールでは「ペッコリ病」と称されるように棘下筋が完全に萎縮する症例がみられることもある。症状としては,肩後方の疼痛,肩の脱力感などで,肩甲上神経障害を疑うには情報が少ないことも多い。常に鑑別に入れておかないと見逃してしまうので注意が必要で,特に痛み単独の症状は診断が難しい。

2 医師による診断

重度な症例は棘下筋の萎縮であるが,野球選手で完全な萎縮を伴うことは少ない。棘下筋の筋力低下,肩後方部の痛みなどに隠れた肩甲上神経障害もあることに注意する。

誘発テスト

Nerve compression testとして,肩甲上神経の圧痛の有無を確認する。水平内転時の疼痛,2nd外旋の疼痛を有することも多い。
肩甲上神経のnerve tension testは,頭頚部を逆側に回旋側屈させた状態で肩甲骨を後傾に誘導する(図12)。これらに,外側肩峰下枝,後肩甲上腕枝を伸張させる場合は,さらに肩関節水平内転を誘導する。

画像検査

画像検査では,MRIやエコーでの棘下筋の筋萎縮,CTでの切痕周囲の評価,さらにはエコー,MRIでガングリオンの有無(図13)を確認する。ただし,画像診断が可能な症例だけではないことを理解しておく必要がある。つまり,画像上は異常がない症例が多いこと。そのため,筆者らは画像診断やブロックテストなどの前に,ある程度診断を確定するため以下の方法で診断している。

肩甲上神経の圧痛
肩甲上神経のNTT
棘下筋の筋力低下
水平内転時痛

腋窩神経障害と同様に,筋力低下を伴わず痛み単独のことも多く,臨床所見から推測し,診断的治療としてブロックテストを行うことが多い。ガングリオン以外で画像診断が可能なことは少なく,画像検査はあくまでも補助的に用いている。

3 治療方針

明らかなガングリオンを認める症例は,18Gの長い針を用いて直接吸引やステロイド注射を行う。再発を繰り返す場合は鏡視下ガングリオン切除や,チェックバルブに対する処置を行う1)
一方で,ガングリオンなどの画像所見がない症例は,まずは理学療法やエコーガイド下のインターベンションを行う。それでも改善がみられない場合は手術を検討する36)

4 エコーガイド下インターベンション

坐位にて肩後方にプローブを当て,三角筋,棘下筋,肩甲骨,上腕骨を描出する(図14)。肩甲頚のスペースを埋めるように,棘下筋下脂肪体が存在する。棘下筋下脂肪体の内部には肩甲上神経,動静脈が存在し,ドプラで血管が存在することが確認できる。

肩甲頚に針を当て,棘下筋下脂肪体との間を剥離するように注入すると交差法でも容易である。棘下筋下脂肪体の滑走を評価する方法などが報告されているが,定量評価はできていない。確かに,内・外旋による脂肪体の動きが悪くみえることがあり,そのよう場合は注射の効果は高い。ただ,水平内転制限と,その際に肩後方の疼痛を訴える場合は,特に有用である。
また,肩関節鏡術後で残存する疼痛にも関連することがあるので,注意して脂肪周囲の動きを観察する。脂肪体内には神経だけでなく,血管も存在するため,局所麻酔薬を使用する場合は血管内に注入しないように注意が必要である。筆者らは0.02%局所麻酔薬(リドカイン)を5mL注入している。

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宮武和馬,藤澤隆弘,大歳晃生,稲葉 裕

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