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私の腰痛35年史 整形外科医が腰の手術を受けたら〜2回の手術の体験談[jmedmook97 あなたも名医!プライマリ・ケア医のための腰痛診療]

井尻慎一郎 (井尻整形外科院長)

登録日: 2025-05-22

最終更新日: 2025-05-01

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  • ※本稿は,井尻慎一郎『プライマリ・ケア医のための腰痛診療』(紙版pdf版)の一部を抜粋・編集したものです。

    医師がすべての病気や怪我を自分で経験することはもちろん不可能です。患者の痛みや不安を理解しましょう,と言われても限界があります。しかし,経験の浅い若い医師と経験の深い年配の医師の医療技術の差は,単に医学的知識や経験,スキルが上ということだけではないと思います。そこには,人間としての様々な人生経験や喜怒哀楽,さらに自分自身が痛みを感じたり,病気や怪我をしたりしたという,患者側の経験をしてきたことも大きいと考えています。
    本書を読まれる医師の方にも,既に入院あるいは手術を受けた経験がある方もいると思います。筆者は医師になって43年,現在68歳の整形外科医ですが,自然気胸を3回し開胸手術も胸腔鏡手術も受け,脳梗塞も患い,5年前には食道癌で内視鏡手術を受けています。幸い食道癌は早期で術後5年を過ぎた今も無事に生きています。
    そして14年前,54歳のときに腰部脊柱管狭窄症で腰椎の除圧固定術を受けています。さらに3年前の65歳時に1つ上の部位の椎間板ヘルニアの手術も受けています。その2回の腰椎の手術経験で得たものを疑似体験して頂ければ幸いです。
    図1は術前の筆者のX線腰椎側面像の経過,図2は第1回目の手術後のX線写真です。


    筆者が最初に腰痛を感じたのは30歳の頃でしたが,腰痛に特に興味があった整形外科医として,腰椎椎間関節症(ファセットペイン)と考えて放置していました。30歳半ば頃から,右の下肢に痺れと痛みが生じ,MRIで小さな椎間板ヘルニアが見つかりました。
    40歳を超えた頃から,腰痛や下肢痛をきたす頻度が多くなり,X線で分離症ではないL5腰椎変性すべり症がみられました。MRIでは脊柱管がやや狭窄しています。ビタミンB12だけを服用しながら,仕事もゴルフも普通にこなしていました。
    45歳頃には,通勤電車の中でじっと立っていることが辛くなるようになりました。ジクロフェナク37.5mgを朝1錠飲み,プロスタグランジン製剤も服用していました。第5腰椎のすべりが大きくなってきて,間欠性跛行もときどき起こるようになり,椎間板ヘルニアから腰椎すべり症と脊柱管狭窄症になっていました。
    友人の整形外科医に5回硬膜外ブロックをしてもらい,しばらくは腰痛も下肢痛も減りましたが,やはり再発してきます。それでも,足の痺れは残るものの痛みを忘れて仕事ができるので,このようなものだと思っていました。
    50歳頃になるとさらにすべりがひどくなり,椎体の間がグラグラになる不安定性脊椎症も合併してきました。さすがにこの頃になると,足の動きが悪くなる運動麻痺が起こったら手術を受けよう,と考えていました。それでも仕事は普通にこなせましたし,特に不安に思うこともありませんでした。ジクロフェナクは相変わらず毎日1〜2錠飲んでいました。当時はプレガバリン(リリカ®)やミロガバリン(タリージェ®)がまだ一般的でなかったので服用していません。
    2011年12月,54歳になった筆者は,右足の爪先立ちができないという運動麻痺があることに初めて気づきました。痛みや痺れのような感覚障害は我慢してもよいのですが,運動麻痺や膀胱直腸障害は時間が経てば経つほど,手術をしても回復しない確率が高くなります。そこで整形外科医で脊椎外科専門医の親友に手術をしてもらうことにしました。多くの腰椎手術をしてきた筆者は,自分の神経が開放されると思ったら,手術が待ち遠しいくらいでした。
    手術は全身麻酔で行われ,2時間ほどで無事に終わりました。第5腰椎と第1仙椎間の脊柱管の後方の椎弓の除圧と金属による固定術です。術直後は腰部に強い痛みがありましたが,翌日からは腰痛も下肢痛もゼロではないですが少なくなっていました。皮膚の傷や切った筋肉の痛みは手術すれば当然あると思っていたので,処方された鎮痛薬を適当に飲みながら無視していました。
    術後3日目からは,硬性コルセットを着用して,歩行器で院内を歩き回るようにしました。右の爪先立ちも少し弱々しいながらできるようになっています。下肢の痛みはほとんどないのですが,痺れは両足に少しは感じます。手術が無事に済んだという解放感とうれしさで,日中はひたすら病院内を歩き,爪先立ちの筋力トレーニングを行い,術後10日で退院しました。
    術後12日目の1月10日から,患者として硬性コルセットを着けたまま,医師として外来診療を開始しました。手術で削った腰椎の骨を前方の椎体の間に骨移植してあります。上下のグラグラの椎体を固定しないと神経麻痺が再発する危険があるため,椎弓切除に前方の椎体間固定術を併用しています。さらに金属で固定していますが,金属は早くベッドから立ち上がるための一時的なもので,移植した骨片により上下の椎体がしっかり癒合するまでは油断できません。
    あまり腰を曲げると移植した骨がずれるかもしれないので,狭いマンションの風呂で腰を曲げないように6カ月間は浴槽には入らず,立ったままでシャワーだけを使っていました。
    医院ではコルセットの上に薄いニットのベストを着て診療を続けました。5カ月間は寝るとき以外,硬性コルセットをきっちりと着けて過ごしました。仕事は普通に行い,もちろんゴルフはしません。5カ月後からは軟性コルセットを1カ月だけ着け,6カ月目からコルセットは外しました。右下肢の運動麻痺は完全に回復しています。しかし両足の痺れは少し残っていましたが,腰椎の手術後に下肢の痛みや麻痺がなくなっても痺れが残ることは普通なので,特に気にしませんでした。
    勤務医時代に腰椎の手術もたくさんしてきた筆者は,移植した骨がとりあえず落ち着くまでに3カ月ほどかかり,本当にしっかり癒合するまでには1年あるいは2年かかると考えていたため,術後2年までは,ゴルフは軽くスイングする程度にとどめていました。その後,CTなどの検査で骨の癒合が良好なことも確かめつつ,手術後2年経った頃から,相変わらず下手ですが,ゴルフでフルスイングするようにしました。
    周りの人に,手術して金属まで入っているのに信じられないと言われましたが,骨さえしっかり癒合すれば怖くありません。ボールも手術前よりも飛ぶようになりました。もちろん無理はせず上手になることは諦めて,健康のためにゴルフをしていました。

    1つ上の部位に腰椎椎間板ヘルニアが

    腰椎は5つの椎体が上下に連なっています。腰を曲げたり伸ばしたり捻ったりした際に,この5つの椎体間が万遍なく平均的に曲がったり伸びたりするわけではありません。多くの場合,第4腰椎と第5腰椎の椎間か,第5腰椎と第1仙椎間がよく動くことがほとんどです。それゆえ椎間板が後方に脱出して神経を圧迫する腰椎椎間板ヘルニアは,約85%が第4・5腰椎間か第5腰椎・第1仙椎間で生じます。筆者の場合は第5腰椎と第1仙椎間が一番よく動いていたために,この部分のヘルニアを生じ,さらに年月の経過とともに第5腰椎が徐々に前方へすべって腰椎すべり症と脊柱管狭窄症を生じていました。
    また,この部分がグラグラし不安定になっていました。手術によるこの部分の除圧で脊柱管を開放して,骨移植と金属で固定すると,確かに不安定性は止まりましたが,手術以降は腰の前屈がかなり窮屈になりました。
    しかし腰はある程度は曲げたり伸ばしたり捻ったりしないと生活できません。さすがにゴルフでは庇ってスイングしたとしても,腰椎は少なからず動いています。頚椎でも腰椎でも,ヘルニアや脊柱管の狭窄を生じている椎間にはほぼ不安定性があります。単にヘルニアを除去するだけ,あるいは骨を削って脊柱管を開放するだけだと,将来またヘルニアや脊柱管狭窄症を再発する危険性があり,固定術を追加する必要性が生じる場合があるわけです。しかし固定すれば,今度は固定した椎間の上下のどちらかが動かざるをえません。
    筆者の場合は腰椎の一番下の第5腰椎と第1仙椎間をしっかり固定してあるので,そのすぐ上の第4腰椎と第5腰椎間が動かざるをえないわけで,いつかはこの部分にもヘルニアや脊柱管狭窄症を生じる可能性は十分にありますが,それは20年ほど後だろうから,70歳半ばまで第1回目の手術がもてば御の字だと考えていました。
    しかし手術を受けて10年経過した64歳の頃から,右の下肢痛が再び出現してきました。また,術後11年目の65歳時には右下肢の筋力低下をきたすようになりました。1回目の手術を執刀してくれた友人の診察を受け,今度は第4・5腰椎間の椎間板ヘルニアが原因だとわかりました。ジクロフェナク37.5mg,ビタミンB12,プレガバリン(リリカ®)を服用すれば痛みは軽減しますが,筋力低下が治りません。痛みと痺れだけなら我慢しても問題ありませんが,筋力低下があるので,残念ながら手術を受ける必要があると思いました。

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