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肥大型心筋症

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-07-12
高山守正 (榊原記念病院肥大型心筋症センター長)
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  • ■疾患メモ

    肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は心筋サルコメア構造蛋白の遺伝子異常を多数の患者で認め,遺伝性疾患の中でも比較的多い疾患で若年から老年に広く分布する。HCMの有病率は日本人10万人当たり374人とされ,稀な疾患ではない。遺伝子変異を保有しても疾患の発症は10人に1人とされる。

    毎年1%の突然死発現と難治性心不全による活動制限,拡張相HCMへの進展が患者の長期予後を決めるとされる1)

    左室流出路あるいは中流部に30mmHg以上の圧較差を示す閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy:HOCM)は,非閉塞例に比べ予後は不良である。

    中隔心筋切除術により長期生存は良好となり,さらに経皮的中隔心筋焼灼術も,適応の慎重な選択により同等な治療成績を示すと報告される。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    息切れ:労作時,特に動きはじめや急ぐとき,階段・坂道を上がるときに起こる。左室内閉塞の増強,左室拡張性低下の増悪が一時的肺うっ血を起こす。食後の軽労作で症状出現が中等症以上の本症の特徴である。

    胸痛・胸部絞扼感:労作に伴い起こるが安静時にもある。相対的心筋虚血による。

    立ち眩み・めまい感・失神:起立時,急な体位の変化で起こる数秒間の意識の遠のく感じ,静脈灌流低下時の1回駆出量低下または心室頻拍出現時の一時的な血圧低下が成因である。

    動悸:数秒あるいは持続する動悸感は発作性心房細動の出現を考える。発作性心室頻拍も成因になる。

    易疲労感,全身倦怠感:重症になると心拍出量低下のために出現する。

    【検査所見】

    収縮期雑音を胸骨左縁第3・4肋間を最強点に聴取する。心尖部にまで拡がる雑音範囲では僧帽弁前尖前方運動(systolic anterior movement:SAM)による僧帽弁逆流の程度が強い。収縮期雑音はバルサルバ法,起立時の収縮期雑音の増強であり,立位負荷で雑音増強があれば流出路閉塞が確実で,診断能が高い。

    心電図:左室肥大を示す。初期はRは増高,Sokolow-Lyon Indexの増高にとどまることも多いが,進行するとST低下(時に上昇),T波陰転,左房負荷などが出現する。様々な部位の異常Q波,QS波の出現,septal Q波の増強など多彩である。中隔近位部のみの肥厚では正常心電図もある。重症進行例はQRS時間延長と心室内伝導遅延を起こし,いわゆるBizzar ECGを示す。

    胸部X線画像:疾患が進行すると心陰影拡大,右第2弓,左第3弓が拡大し,心房細動を起こすと心拡大が著明となる。

    心エコー図:本症の診断にはエコーによる評価は必須である。診断には心室中隔壁厚15mm以上,左室後壁厚との比率1.3以上がまず必須である。ほかに左室肥大を生じる疾患を否定することが必要である。収縮時血流が加速され30mmHg以上の左室内圧較差が算定される(>3m/秒)ときは有意な閉塞と診断する。心筋肥厚が心室基部に著明で僧帽弁前尖が収縮期に前方に偏位し流出路を塞ぐSAMが認められるのが左室流出路閉塞の特徴である。同時に前尖裏を血流が左房に抜けて僧帽弁逆流を起こす。加速血流の速さ・逆流の程度は患者の緊張度,収縮性,前負荷・後負荷の程度により変動し,必ずしも一定ではない。

    心MRI:HCMではMRIはガイドラインにてクラス1として実施が推奨される2)3)。心筋肥厚の評価,左室重量,収縮性や閉塞,逆流などを評価し,さらにガドリニウム負荷MRIにより障害心筋が描出され,その程度により突然死を予見しうるともされる。

    心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise training:CPX):心不全があってもコントロールされれば無酸素閾値を超えない有酸素運動レベルでの運動は推奨され,心拍数(脈拍数)を目安にする。

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