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FOCUS:ちゃんと知りたい 感染性心内膜炎

No.5268 (2025年04月12日発行) P.9

倉島真一 (国立循環器病研究センター心不全・移植部門心不全部)

登録日: 2025-04-11

最終更新日: 2025-04-08

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国立循環器病研究センター心不全・移植部門心不全部

倉島真一

2016年山形大学医学部卒業。仙台市立病院で4年半の研修後,国立循環器病研究センター心不全部の専門修練医を経て,2023年から現職。主に弁膜症のカテーテル手術(TAVR,M-TEER)や心不全の診療および研究に取り組んでいる。


国立循環器病研究センター心不全・移植部門心不全部部門長

泉 知里

私が伝えたいこと

◉感染性心内膜炎は不明熱の代表疾患であり,付随する症状は多彩である。

◉診断は,血液培養と心エコー図検査,身体所見で行う。人工弁感染性心内膜炎や心臓デバイス関連感染性心内膜炎では,心臓CTやFDG-PET,67Gaシンチグラフィが特に有用である。

◉速やかな抗菌薬治療に加えて,外科手術の適応(心不全増悪,難治性感染症,塞栓症ハイリスク)に関する評価を同時に行うことが重要である。

❶ はじめに

医療が目覚ましい進歩を遂げている中で,感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)の罹患率と高い死亡率は依然として改善されていない。むしろ,ペースメーカや植込み型除細動器といった心臓内デバイスや,経カテーテル的大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve replacement:TAVR)などの低侵襲治療の普及により人工弁を有する患者が増えたことで,IEの罹患率は世界的に上昇している。本邦でもDPCデータによると,入院患者におけるIE罹患率は,2016年の10万人・年当たり2.02人から2021年には2.59人へ上昇している。平均年齢は2016年の70歳から2021年には73歳に上昇して高齢化が進み,院内死亡率は2016年の14.1%から2021年には15.4%と上昇している1

IEの死亡率を少しでも改善させるためには早期診断が重要である。しかし,その症状は実に多彩なため,不明熱として扱われて診断が遅れることは少なくない。近年は診断基準が改訂されて,FDG-PET/CTや心臓CTといった画像検査も重要視されるようになったが,診断において最も重要な検査は,血液培養と心エコー図検査の2つであることは変わらない。

IEの診断感度を向上させる方法は,発熱患者に血液培養を行うことである。しかし,入院患者であればともかく,外来診療で発熱患者全員に行うのは現実的に困難である。そのため,どのような状況でIEを疑うのかを知ることが重要である。また,診断後は速やかに抗菌薬の静脈内投与を開始し,合併症の評価を行うとともに,外科手術の適応について繰り返し評価することが重要である。本稿では,どのような患者でIEを疑うか,近年改訂された診断基準とそのポイント,IE診断に必要な検査とそのピットフォール,抗菌薬治療と手術適応,治療後のフォローアップと予防について解説する。

❷ 感染性心内膜炎(IE)の定義と病態

IEは,「弁膜や心内膜,大血管内膜に細菌集蔟を含む疣腫(vegetation)を形成し,菌血症,血管塞栓,心障害などの多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患」と定義される2。IE患者の約90%にみられる「疣腫」は診断において非常に重要であり,その形成機序を知ることで,どのような患者になぜIEが発症するのかを理解しやすくなる。

疣腫の形成には,①損傷した心内膜と,②菌血症の存在が必要である。つまり,弁膜症や先天性心疾患による異常血流,人工弁などの異物により生じた心内膜損傷部位に血小板が付着し,非細菌性血栓性心内膜炎(non-bacterial thrombotic endocarditis:NBTE)が生じる。NBTEを有する症例において,歯科処置などにより一過性の菌血症を起こすと,NBTEの部位に菌が付着・増殖し,血小板やフィブリンに保護されるような形でコロニーを形成する。これが疣腫形成のメカニズムである。この疣腫をはじめとする感染が,①持続的菌血症,②心内構造の破壊,③血管塞栓症や免疫異常を引き起こした状態がIEである。したがって,IEを診断するために基本となる検査は,①血液培養,②心エコー図検査,③身体所見の3つである。

❸ IEの診断はなぜ難しいのか?:発熱に加わる多彩な症状

IEに多くみられる症状や所見を1 3に示すが,後述する小基準にもなっている38℃以上の発熱はほとんどの患者にみられる。高齢者や免疫機能が低下した症例では発熱を含めた典型的症状がない場合もあるが,このような場合でも,「CRPの上昇」は認められることが多い。この段階で,血液培養と心エコー図検査を行えば,IEの診断はそれほど難しくないかもしれない。しかし,二次・三次医療機関の入院患者と違って,一次医療機関の多忙な外来診療では発熱患者全員に血液培養を実施することは難しい。

発熱に加えて強い心雑音や心不全症状を伴う場合には,血液培養と心エコー図検査を行う動機になりやすいが,必ずしもそうではない。IEはこの発熱に加わる+αの症状が多彩であるがゆえに診断が難しく,誤診も多いのである。症状が多彩な理由は,IEは血管塞栓によって全身のいずれの臓器にも影響を及ぼしうる疾患だからである。IE患者の多くは塞栓症を合併しており,このうち脳梗塞は無症候性も含めて約50%の患者に合併している。他にも脾梗塞(左季肋部痛),腎梗塞(背部痛・側腹部痛),腸間膜動脈閉塞(腹痛),心筋梗塞(胸痛)など,どの臓器にも塞栓症が生じうるため,どんな症状も起こりうる。

さらに,これらの臓器症状に発熱が加わることでcommon diseaseと誤診されるケースも多い。腎梗塞による血尿に発熱が加わり,尿路感染症のように見えることがある。発熱としつこい咳嗽も,実はIEに心不全が合併したことによるものなのに,マイコプラズマ肺炎に見えることもある。発熱と腰痛の高齢女性は,季節性の流行感染症にもともとある慢性腰痛が増悪したように見えることもあるだろう。こうして,血液培養を実施せずに抗菌薬の投与が行われ,不明熱と化すのがIEの怖いところである。

発熱を伴う脳梗塞を合併している場合
発熱+脳梗塞を見たら,血液培養と心エコー図検査を行うべきである。このエピソードから診断に至る症例は多く感じる。

他の臨床徴候で診断に近づけないかと考えるが,新規発症の心雑音は重要な所見であるものの48%と頻度はそれほど高くない。また,初診では新規発症のものかわからないし,弱い心雑音は高齢者ではしばしばみられ,判断が難しい3。特に初期は弁破壊が進んでおらず,心雑音が目立たない場合も多い。IEの末梢血管病変は診断的価値が高く見逃してはならないが,微小血管塞栓によって生じる結膜・頬粘膜・四肢の点状出血や,爪下線状出血,Janeway発疹(手掌や足底の無痛性紅斑),Roth斑(眼底の網膜出血斑),そして免疫異常に伴うOsler結節(有痛性発疹)はそれぞれ10%未満と頻度は低い。このように,臨床徴候だけで発熱患者からIEを疑って血液培養や心エコー図検査につなげるのは難しい。

❹ どのような患者でIEを疑うべきか?

IEを疑わなければその優れた診断基準を活用することはできず,診断には至らない。そのため,まずはIEを疑うポイントを知ることが重要である。

(1) IE発症のリスク因子

稀な疾患であるIEを疑うために最も重要なことは,発症のリスク因子を知ることである。IEのリスク因子は,①心内膜炎を起こしやすい心臓疾患,②菌血症になりうる侵入経路の2つに大きくわけられる(2)。

心臓疾患として最もリスクが高く成人によくみられるのは,人工弁置換術後,弁形成術による弁輪リング装着例およびIEの既往である。これには近年増加しているTAVR後も含まれる。また,リスクは中等度に低下するものの,中等症以上の弁膜症は有病率が高く,IEの原因疾患としてしばしばみられる。米国の疫学研究では75歳以上の13.3%に中等症以上の弁膜症が認められた4。リスクとなる弁膜症は,リウマチ性僧帽弁狭窄症を除いた左心系と右心系の狭窄や逆流が当てはまり,特に僧帽弁閉鎖不全症が原因として最多である。先天性心疾患においては,複雑性チアノーゼ性のものが最もリスクが高い。他は二次孔型心房中隔欠損症を除くほとんどの先天性疾患が中等度のリスクにあたり,心室中隔欠損症が最多である。

菌血症になりうる侵入経路として最も有名な手技は抜歯であるが,歯科処置の中では歯石除去やインプラント手術などもリスクとなる。また,う歯や歯周病を放置していると,咀嚼やブラッシング時の出血でも菌血症を起こしやすくなるため,口腔内の衛生状態全般について問診すべきである。そのほかのリスクになりやすい手技としては,心臓デバイス植込みはもちろんのこと,耳鼻科領域では扁桃摘出術・アデノイド摘出術が,泌尿器科領域では経尿道的前立腺切除術が,局所感染巣に対する膿瘍ドレナージや感染巣への内視鏡検査および治療(胆道閉塞を含む)などが挙げられる。2 25に挙げた他のリスク因子をまとめると,皮膚バリアが障害された状態,血管アクセスを伴う処置の頻度が高い状態と言える。

問診時のpitfall
問診でリスク因子が確認されなかった場合でも,単にこれまで指摘されていなかった可能性があるため注意する。


(2) IEを見逃さないために

IE発症のリスク因子がない(あるいは指摘されていない)患者でもIEが潜んでいることがある。このような場合,典型的な臨床徴候がみられなければ不明熱として扱われ,診断が遅れることが多い。IEを疑うための手がかりとして,発熱に併存しやすい所見や病歴を3に示す6。この中で経験的に多い病歴が,「抗菌薬内服による一時的な解熱後,内服終了後数日から数週後に発熱再燃」である。IEは初期には診断がつかず,抗菌薬が処方されることの多い疾患だが,良くも悪くも内服抗菌薬がある程度効いてしまう。しかし,内服抗菌薬だけで治癒することはほとんどないため,多くの場合で発熱が再燃する。このような場合には当初の診断を見直し,新規または増悪する心雑音がないか,四肢末梢の病変がないかを丁寧に再確認し,血液培養と心エコー図検査を行うべきである。これらの検査を行わずに安易に抗菌薬の再開を行うことは,IEの診断が遅れて重篤な合併症を引き起こす要因となるため注意する。


IE診断は「後医は名医」
IEは,循環器領域において「後医は名医」と言われる代表的な疾患である。長引く発熱や倦怠感がある場合は,必ず鑑別診断として考慮すべきである。

(3) 他疾患との鑑別のコツ

IEの診断が遅れる原因のひとつに,他疾患との鑑別が難しいことが挙げられる。以下にいくつかのポイントを示す。

◉既に他疾患と診断されて抗菌薬治療が行われている場合,解熱もしくは38℃未満の微熱が持続することがある。この場合はIEであっても血液培養が陰性となることが多いため,3日程度抗菌薬を休薬して血液培養を再検することが有用である。

◉IEでは,免疫反応の影響で抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)やリウマチ因子,抗核抗体が陽性になることがあり,ANCA関連血管炎と誤診されることがある7。また,筋肉痛や関節痛,腰痛などの症状が,リウマチ性多発筋痛症のような臨床像を呈することもある8。このような「一見感染症らしくない場合」に,感染症を疑わずに不明熱検索として追加採血が行われ,その結果が独り歩きするケースがあるため注意が必要である。一見「感染症らしくない」と思っても,発熱が長引く場合は,必ず血液培養を提出すべきである。

◉黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による菌血症の患者の約5~30%にIEが合併しているため,血液培養で黄色ブドウ球菌が検出された場合には心エコー図検査を行うべきである。また,黄色ブドウ球菌が尿培養から検出された場合も,血行性の細菌尿である可能性があるため,単純な尿路感染症と判断せずに血液培養と心エコー図検査を実施することが重要である。

◉化膿性脊椎炎や椎間板炎の診断を受けた患者では,IEの合併がないか検索する必要がある。

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