□アデノウイルス(adenovirus:Ad)はエンベロープを有さない二本鎖のDNAウイルスであり,57種類の血清型が知られている。1953年Roweらによってヒトのアデノイドから分離された。
□季節特異性がなく年間を通じて臨床検体より分離されるが,一部の型が流行性に発生する傾向がある。小児呼吸器ウイルス感染症の5~10%,小児胃腸炎の約10%がAdによる。
□多彩な臨床病型を呈するが,通常は自然軽快する疾患であり大部分は予後良好であるが,時に全身感染を引き起こし重症化する。比較的感染力が強く,感染対策においても重要なウイルスである。
□Adの臨床症状は種,および血清型に依存し多彩な病型が知られている(表1)1)。主に呼吸器疾患(咽頭炎,扁桃炎,肺炎),眼疾患(咽頭結膜熱,流行性角結膜炎),消化器疾患(胃腸炎),泌尿器疾患(出血性膀胱炎)などがあり,乳幼児や免疫不全者においては播種性感染,重症肺炎,髄膜炎,脳炎を起こしうる。
□病原体証明のゴールドスタンダードはウイルス分離・同定であるが,迅速性に欠け,ほとんどの施設では実施不能である。間接的な病原体診断法として抗原検出,核酸増幅法,急性期と回復期の血清抗体価検査が行われている。現在,臨床現場で広く用いられるのが,迅速性のある抗原検出法である。ラテックス凝集反応,酵素免疫測定(enzime-linked immunosorbent assay:ELISA)法や免疫クロマトグラフィー(immunochromatography metod:IC)による抗原検出キットが市販されている。特に最も臨床応用されているICによる抗原検出キットは感度60~80%・特異度90%以上であり,診断に有用である。一方,抗原検出法のデメリットは血清型別は判定できないことや局所の不十分な擦過は偽陰性につながることである。
□注意点として,検出検体が角結膜ぬぐい液・鼻腔吸引液・咽頭ぬぐい液・および糞便に応じて適する迅速診断キットが異なり,使いわける必要がある。近年,遺伝子診断(PCR法や制限酵素切断法)が可能となり,迅速診断に有用で型判別も可能となった。自分の施設での施行が困難な場合は,検査施設に外注することが可能である。Ad抗体は,補体結合抗体(complement fixation:CF)・赤血球凝集阻止抗体(hemagglutination inhibitor:HI)・中和抗体(neutralization test:NT)がありいずれも発症から約7日で出現し,ペア血清で4倍以上の上昇を見て判断する。CFはすべてのAd血清型に共通の特異抗体で型判別はできないが,2~3カ月で低下するので急性感染の診断に有用である。HI,NTは型特異的で長時間持続するので,感染の既往の判定に役立つ2)。すべての血清型が検査できるわけではなく,血清学的診断は主に疫学調査のために用いられる。表2にそれぞれの臨床検査の有用性・問題点・実際の臨床応用について示した。
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