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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症〜5類となって2年、そしてお花見」岡部信彦

岡部信彦 (川崎市立多摩病院小児科)

登録日: 2025-04-23

最終更新日: 2025-04-22

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2025年の桜の開花は遅かったが、3月下旬から開花宣言、そして満開情報が届き、有名・無名の地を問わず、ゆっくりとお花見を楽しむ人があちこちでみられた。

2020年3月下旬、もう5年も前になる。新型コロナウイルスが発生から約3カ月、海外に比べると発生状況は緩徐であったが、しだいに入院患者数が増加し、感染症病棟やICUが逼迫する状況となった。一時、感染者数は減少傾向になったが、この状態でお花見ができるかできないか、するかしないかでメディアなどでは社会の関心事として取り上げられた。患者数を減少させるためには、人の集まりの制限が必要であるという意見、制限には緩急があるべきで持続する制限は不要とする意見など、様々であった。私は花見に対しては「家族など少人数で、戸外で『花を楽しむ』のであれば、感染の機会は少ないのでよいのでは」という考え方であった。

2025年5月で新型コロナウイルスが5類感染症となって2年、社会の反応もだいぶ落ち着いたように思う。一般の人がそれほどピリピリせずに、しかし、一定の注意は必要であり、その注意喚起は医療・行政サイドは「あおることなく続けていく」との考え方であれば、妥当な状況であるとも言える。

感染症は人から人にうつる病気である。「早くよくなってもらいたい」という気持ちは誰にとっても共通であろうが、それが自分に及ぶかもしれない、しかも得体のしれない病気となると、「そばに寄ってくれるな」「あっちへ行け」という攻撃になり、不安と不適切な情報はそれを倍加させる。社会的制裁への恐れも加わるであろう。東大医科研の武藤香織教授は、「危機が迫ったときに私たちは容易に人を攻撃する」と述べている。

感染症が発生すると私たちの社会は攻撃的になり、また過剰な防衛反応に走ることがしばしばみられる。2020年3月28日の新型コロナウイルス感染症基本的対処方針には既に、「感染状況に関する情報が特定の個人や地域にネガティブなイメージを生まないようにする必要があるが、患者・感染者、その家族や治療・対策に携わった方々等の人権が侵害されている事案がみられており、政府は適切に取り組む必要がある」と述べてある。また、「政府及び関係機関は、各種対策を実施する場合においては、国民の自由と権利の制限は必要最小限のものとする」とも述べている。病気への理解が進んできても一旦生じた恐れの気持ちは「できるだけ完全に防ぐべし」「万が一発生したらどうする」ということがしばしば求められ、これらを払拭するには相当の時間を要する。

再び息を吹き返してくる再興感染症、あるいは既存の感染症の再流行などは現実に生じており、新たな感染症発生はありうることとして認識しておく必要がある。そのような状況にかっとなって熱く走り「イケイケどんどん」とならぬよう、冷静に対応することが求められるところと思う。そのためには平常時における準備、そして、それらができる人材の育成が何よりも重要である。

岡部信彦(川崎市立多摩病院小児科)[感染症][新型コロナウイルス感染症

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