□単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)により,皮膚・粘膜に疼痛を伴う小水疱およびびらん性の病変が形成される疾患である。
□初感染は不顕性感染のことが多い。
□初感染後,HSVは神経節に潜伏感染し,紫外線,精神的ストレス,疲労,外傷,手術などの誘因によって再活性化すると再発病変を形成する。
□HSV-1は主として口唇ヘルペス,HSV-2は主として性器ヘルペスの原因となる。
□アトピー性皮膚炎など,皮膚のバリア機能低下によりHSVが播種状に感染したものをカポジ水痘様発疹症と呼ぶ。
□性器ヘルペスの解説は他項(「§12-22 性器ヘルペス」)参照。
□初感染は不顕性のことが多いが,小児にヘルペス性歯肉口内炎として,口唇や口腔粘膜内に多発する小水疱や歯肉腫脹をきたす。疼痛が激しく,食物の経口摂取が困難になるため脱水や栄養障害に対する対応も必要となる。
□再発性病変は口唇ヘルペスの臨床像をとる。違和感,そう痒感,灼熱感,軽度の疼痛といった前駆症状の後,口唇辺縁に限局した数個の小水疱の集簇を見る。
□カポジ水痘様発疹症では発熱,リンパ節腫脹などの前駆症状とともに顔面,頸部を主体として多発性の小水疱が出現し,播種状に拡大し膿疱,びらんとなった後,痂皮を形成する。びらん病変は黄色ブドウ球菌などによる二次感染を生じ,伝染性膿痂疹との鑑別が必要な場合もある。HSV初感染の場合は全身症状が強く,またびらん形成による局所の疼痛も強い。一方,再発の場合は初感染に比べ軽症となるのが一般的である。
□水疱蓋もしくはびらん部の細胞をスライドガラスに塗抹し,ギムザ染色を行い,ウイルス性巨細胞や空胞細胞を検出するTzanck試験は簡便であり,臨床の場で即時に施行できるため頻用される。ただし,水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)感染症との鑑別はできない。
□蛍光抗体法によるウイルス抗原の検出はTzanck試験と同様,水疱底の細胞をスライドガラスに固定した後,抗HSV-1もしくは抗HSV-2モノクローナル抗体を用いて蛍光抗体法を行う。外注オーダーも可能であり,結果は数日で判明する。抗VZVモノクローナル抗体を組み合わせることでVZV感染症との鑑別が可能となる。
□血清抗体価の判定法としては補体結合反応(CF),酵素抗体法(EIA),中和抗体法(NT)などがある。ペア血清で有意な抗体価の上昇を認めるか,EIA法でIgM抗体の上昇がみられたら初感染と診断できる。しかし,HSVとVZV間の交差反応や,抗体上昇の遅れもあり,臨床の場での迅速診断としての有用性は少なく,もっぱら感染の既往の判定に用いられる。NT法は特異度が高く信頼できる検査であるが,HSV-1とHSV-2の識別は困難である。
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