□外傷性頸部症候群は,「頸部外傷によって生じた頸椎および神経系の構築学的ならびに神経学的帰結であり,運動および神経機能の多彩な異変のみならず精神神経学的ならびに耳性学的,視覚平衡機能障害を伴いうる症候群」と定義される1)。
□受け身の治療継続は回復につながらないため,早期に通常の活動を行うように指導する。
□主な症状は,頸部痛である。そのほかにも多彩な症状がみられることがある(表1)2)。
□主たる病態は筋,靱帯,椎間板などの頸椎支持軟部組織の損傷と考えられている。しかし通常,外傷性頸部症候群において発生しうる微細な損傷で疼痛の発生源を同定することは,科学的に困難である。
□Quebec Task Forceは,むち打ち損傷はすべて5つの診断カテゴリーのいずれかに分類できるとしている(表2)3)。この分類は病理解剖学的分類というよりは,むしろ患者の自覚症状と理学所見に基づいた分類である。
□頸椎に器質的な損傷が発生しているか否かを評価するために画像検査が行われる。以下に画像検査の価値と限界について述べる。
□本症は,骨傷のない軟部組織損傷が本態と考えられているため,骨傷の有無を確認するために単純X線写真は必須となる。
□ただし,単純X線写真の骨折診断率は70~85%とされているため軽微な骨折を見逃す可能性があり,高エネルギー損傷で頑固な頸部痛が持続する場合には他の画像検査も必要になる4)。
□単純X線写真では,骨傷の有無以外に加齢変化の有無や頸椎アライメントにも注目する。側面像における頸椎弯曲異常は,筋緊張や靱帯,筋などの軟部組織損傷の存在を間接的に示唆する所見とされてきた。しかし,頸椎前弯消失や局所後弯は,健常者と外傷性頸部症候群の患者で同頻度に認められることから,多くの場合で病的意義は持たない所見であると考えられる4)5)。
□組織分解能に優れ,椎間板や靱帯,脊髄,神経根などの軟部組織の描出に有用である。しかし,靱帯損傷などの外傷性変化をとらえられる場合は必ずしも多くない。
□急性期外傷性頸部症候群患者のMRI上の椎間板変性所見や脊髄圧迫所見は,外傷性の変化というより加齢変化と考えるほうが妥当である。慢性化例におけるMRIの意義についても明らかではない。
□慢性化した外傷性頸部症候群患者では,しばしば認知障害,集中力低下,頭痛などの脳・脳幹部症状を認める。脳の機能を把握するために脳単一光子放射断層撮影(single photon emission computed tomography:SPECT)やPETを行った報告がある6)。外傷性頸部症候群患者において,これらの画像検査で頭頂─後頭部で代謝や血流の有意な低下が認められたとする報告がある一方,有意な所見は認められなかったとする報告もあり,現時点では意見が一致していない。
□MRIやCT,核医学検査などの各種画像検査を用いても,外傷性頸部症候群の病態解明に至る画像所見はいまだ明らかにされていないのが現状である。
□各種画像の読影の際には画像所見と臨床症状を十分に対比し,慎重に画像所見の意義を判断する必要がある。
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