腰椎椎弓の上・下関節突起間部の連続性が断たれて分離した状態が腰椎分離である。主に発育期に生じた腰椎椎弓の関節突起間部の疲労骨折が原因と考えられている。疲労骨折が成人期に発生することは少なく,成人の腰椎分離症は発育期に生じた疲労骨折が癒合せず,偽関節化した状態と考えられる。下位腰椎の,特に第5腰椎の椎弓が好発部位である。調査によれば,日本人の約6%に腰椎分離症が認められるが,無症候性も多い1)。腰椎分離により腰椎後方組織の安定性が損なわれると,経年的に尾側椎体間の椎間板や分離部に機械的ストレスが生じる。その結果,椎間板変性の進行や腰椎分離部に力学的負荷が働き,椎間板の傾斜に沿って椎体が前方にすべりを生じる。この状態が腰椎分離すべりである。腰椎分離症の15~24%が腰椎分離すべり症に移行する2)3)。
最も頻度の高い症状として腰痛があり,分離部の不安定性に起因する腰部の鈍痛に加え,分離部椎体棘突起を押さえると圧痛を生じる。また,変性した椎間板,椎体終板,椎間関節なども腰痛の原因となりうる。下肢症状(痛みやしびれ)も呈することがある。腰椎分離すべり症では,椎体が前方転位した際でも分離椎弓は脊柱管の後方に残るため,中心性の脊柱管狭窄を起こすことは少ない。しかし,分離部の組織増生(骨棘やfibrocartilaginous massなど)により片側の神経根障害をきたすことが多い。下肢症状を呈する患者では,下肢の神経学的所見と画像所見での障害高位が一致するかを評価することが重要である。選択的神経根ブロックを行うことが診断に有用である。また,成人期における腰椎分離もしくは腰椎分離すべりには無症候例も少なくない。
成人期の腰椎分離症,腰椎分離すべり症に対してはまず保存加療を行う。日常生活に大きな支障をきたす症状を呈することは少なく,多くの症例では保存療法で軽快する。保存療法を行っても症状,特に痛みの緩和が得られず,日常生活に支障をきたす症例や,下肢筋力低下などの重篤な神経障害が出現した場合には手術治療を考慮する。
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