□胎児水腫とは,胎児の広範な皮下浮腫を認め,多くは腔水症を伴う。単一でなく,様々な要因から起こる。胎児水腫は大きく,免疫性と非免疫性にわけられる。
□免疫性胎児水腫:Rh不適合妊娠に伴う溶血性貧血を主とする血液型不適合妊娠による。
□非免疫性胎児水腫:免疫性以外によって引き起こされる胎児水腫の総称で,多種の病因により発症し胎児水腫の76~87%に及ぶ1)。非免疫性胎児水腫の治療は原疾患によるが,必ずしも予後良好ではない。
□胎児水腫を認めた場合は,早急に専門医のいる周産期センターに母体紹介する必要がある。
□Rh不適合妊娠以外にも,Kell抗原などの血液型不適合も原因となる。Rh不適合妊娠による溶血性貧血は,第2子妊娠のときに起こる。極度の胎児貧血は胎児水腫を惹起する。免疫性胎児水腫は,抗D免疫グロブリン投与により頻度は減少した。しかしE/e,C/c抗原や,そのほかの血液型不適合の可能性はある。
□心血管系の異常:心血管系の先天異常,不整脈,特発性心筋症による2)。胎児水腫の機序は,高い右室圧と容量負荷による右心不全により静脈圧上昇が原因となる。不整脈では右心系のポンプ機能低下が原因となる。発作性上室頻拍では胎児頻脈から胎児水腫に至る。胎児徐脈は先天性心疾患に合併することも多いが,母体抗SS-A抗体陽性の場合,胎児の完全房室ブロックを認めることがある1)。
□血液疾患:胎児貧血は高拍出性心不全から胎児水腫となる。貧血に伴う髄外造血は,肝機能不全をきたし胎児水腫の要因となる3)。胎児母体間輸血症候群では,胎児心拍数陣痛図(cardiotocogram :CTG)上,sinusoidal patternとなる。双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)では供血児は胎児貧血により,受血児は容量負荷による心不全により共に胎児水腫の可能性がある。
□染色体異常,奇形症候群,リンパ管異常:21トリソミーでは,リンパ管異常や房室中隔欠損症から胎児水腫をきたすことがある。染色体異常症では,妊娠初期に頸部のnuchal translucency(NT)を認めることがある。乳糜胸は,胎児胸水の中では最も多い。横隔膜異常がなく,胎児水腫を伴わないことが定義とされているが4),臨床的には胎児水腫を伴う乳糜胸も多い。乳糜胸は1万出生に1の割合でみられ,2000出生に1人が入院となる5)。特発性乳糜胸は,リンパ管,特に第5胸椎付近を走行する胸管の解剖学的な異常や,先天的なリンパ系の瘻孔などの存在が考えられている5)。ターナー症候群やヌーナン症候群では,肺のリンパ管拡張症例もある3)。
□感染症:TORCH症候群,中でもパルボウイルスB19を考慮する。
□胸腔内病変:先天性嚢胞性腺腫様肺奇形(congenital cystic adenomatoid malformation:CCAM)や先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia:CDH)は,心臓を圧迫することで,静脈還流が減少し胎児水腫に至る1)。CCAMのmicrocystic typeは30%が胎児死亡となる6)。
□そのほかの原因:尿路系,消化管,中枢神経系などの先天異常も原因となる。母体へのインドメタシン投与は,在胎34週以降は,胎児動脈管収縮作用を有することがあり,胎児水腫の原因となる7)。そのため,使用は在胎32週以前に限定される8)。
□RhD不適合妊娠では,妊娠28週までに母体間接クームス試験を再検する。以後4週間ごとに間接クームス試験を行う。また,羊水吸光度(⊿OD450)測定や,臍帯穿刺により胎児貧血の有無を確認する。
□胎児の中大脳動脈PSV測定は,非侵襲的でかつ胎児貧血との相関は良好なため,近年,胎児貧血の評価に用いられる9)。
□心血管系の異常が疑われたら,心エコー検査,心臓カテーテル検査で確定診断を行う。
□胎児の完全房室ブロックや心筋症が疑われたら,母体の抗SS-A抗体価測定を行う。1絨毛膜2羊膜双胎では,TTTSの可能性がある。
□胎児母体間輸血症候群が疑われる場合には,母体血液循環に流入している胎児赤血球を染色検出するKleihauer-Betke試験を行う。
□染色体異常症が疑われるときに,羊水もしくは児血の染色体検査を行う。先天感染の診断には,TORCH症候群関連病原体の特異的IgM抗体価測定を行う。ただし,必ずしもIgM高値とならないこともあり,個々の感染症診断に相応の検査を行う。多くの先天奇形の診断には,胎児MRI検査が有用である。
□胸腔内病変では生後,胸部CT検査を行う。乳糜胸の確定診断は,出生後の胸腔穿刺により行われる。胸水中の白血球数20~50/HPF以上で90%以上がリンパ球,総蛋白質,電解質が血漿成分と同じ,中性脂肪が高値(0.9g/dL),コレステロール値が低値(0.6g/dL)などで診断される10)。
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