常位胎盤早期剝離(早剝)は,胎児が娩出する前に胎盤が子宮壁より剝離する。発症予知が困難で妊婦の1%に突然発症し,その診断の遅れは母児の予後に大きく影響する。早剝では,急速な消費性凝固障害から産科播種性血管内凝固(DIC)に至り,子宮摘出を要し母体死亡に至ることがある。さらに,分娩に関連して発症する児の脳性麻痺の原因として最多である。
早剝の典型例では,突然の性器出血と腹痛を呈し,触診で子宮は過緊張の状態となり板状硬に触れる。しかし,早剝の初発症状は,剝離の程度や部位により様々である。早剝の20%は切迫早産と診断され,胎児仮死や胎児死亡に至るまで早剝が疑われない。早剝と切迫早産あるいは分娩開始徴候との鑑別は,きわめて重要である。早剝で認める性器出血はポートワイン色のさらっとした出血であるが,切迫早産の性器出血は一般に粘稠であり,血液の性状が鑑別の一助となる。
早剝の典型例では,超音波断層法により胎盤後血腫や胎盤の肥厚が認められる。しかし,超音波断層法による早剝の診断の感度は24%と高くない1)。胎児徐脈を認めない症例では超音波断層法に多くの時間を費やすことなく,分娩監視装置により胎児の健常性を確認する必要がある。
いわゆる慢性早剝羊水過少症候群と呼ばれていたCAOS(chronic abruption-oligohydramnios sequence)は,性器出血,胎盤後血腫,羊水過少を呈し,その症状は早剝と類似することがある。CAOSの病態解明に伴い,その病態はまったく異なることがわかってきた。CAOSの鑑別にはMRIが有用であり,T1強調画像における子宮内腔に沿った高信号領域を特徴とする2)。
残り1,365文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する