2025年2月27日、慶應義塾大学病院の臨床研究審査委員会は「子宮性不妊女性に対する生体間子宮移植の有効性・安全性に関する探索的臨床試験」の実施計画を承認しました。これは、生まれつき子宮がないロキタンスキー症候群などの「子宮性不妊症」の20〜30歳代の患者を対象としています。
子宮移植は、子宮を持たない女性が妊娠・出産を可能とするための新たな医療技術として注目されており、2011年にトルコで世界初の成功例が報告されて以降、少なくとも100件以上の子宮移植が実施され、70人以上の出生が確認されています。
子宮移植は高度な外科的手術であり、ドナーとレシピエントの双方に手術リスクが伴います。レシピエントは移植後、拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤の投与が必要となりますが、これにより感染症や他の合併症のリスクが高まる可能性があります。また、妊娠中は妊娠高血圧症候群などの合併症が発生しやすいと報告されています。
これまでの報告では、子宮移植後に出生した児に重大な先天異常は確認されておらず、出生後の発育も順調であるとされています。しかし、免疫抑制剤の胎児への長期的な影響や、子宮移植自体が子どもの健康に及ぼす影響については、今後の長期的な追跡調査が必要とされています。
子宮移植に対しては賛否両論ありますが、否定的な意見の中には、リスクを懸念するものだけでなく「そこまでして女性に子どもを産ませたいのか」「女性からの搾取では」という声もありますが、これらは誤解に基づいた批判です。子宮移植はあくまで「子宮がない女性のための治療法」であり、その当事者の方たちにとっては、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(sexual reproductive health and rights:SRHR)を享受するための1つの選択肢です。
安全性や倫理的課題についての検討は引き続き必要ではあるものの、必要としている人がいて、医療の進歩により技術的に可能であるならば、それを感情論だけで否定するのではなく、冷静に今後の研究成果を見守りたいと思います。
稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[子宮性不妊症][子宮移植][SRHR]