本邦では,日本妊娠高血圧学会(Japanese Society for the Study of Hypertension in Pregnancy:JSSHP)により,2018年に妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy:HDP)の定義・分類改訂が行われた1)。これは国際的な標準化をめざして行われ,あらたに高血圧合併妊娠(chronic hypertension:CH)がHDPと診断された。また,これまでHDPと診断されていた子癇が,除外されることとなった。
旧分類では,蛋白尿を伴うことで診断されていた妊娠高血圧腎症(preeclampsia:PE)は,蛋白尿だけではなく,母体の臓器障害や胎盤機能不全を伴う場合にも診断されることとなった。治療の部分では,HDPは以前から,妊娠帰結が基本であるが,その病型によっては,降圧療法や発症予防面のエビデンスが発表され,診療ガイドラインも変わりつつある。本稿では,HDPの診断と治療について,最近のトピックを中心に概説する。
主に旧分類との変更点を中心に示す。新定義では妊娠週数によらず,「妊娠時に高血圧を認めた場合」にHDPと診断される。詳細は表1 1)を参照されたいが,①妊娠20週以降に高血圧だけではなく臓器障害も認めるPE,②妊娠20週以降に高血圧を認める妊娠高血圧(gestational hypertension:GH),③妊娠前または妊娠20週以前より高血圧または尿蛋白が存在し,妊娠20週以降にそれらが増悪ないしあらたな母体臓器障害や子宮胎盤機能不全を認める加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia:SPE),④妊娠前または妊娠20週未満より高血圧を認めるCH,の4種類に分類される。
高血圧は,収縮期血圧140mmHg以上,または,拡張期血圧90mmHg以上で診断される。収縮期血圧160mmHg以上,または,拡張期血圧110mmHg以上で重症と分類されるのは,旧分類と変わらない。しかしこれまで,“軽症”と分類されていた収縮期血圧140~159mmHg,拡張期血圧90~109mmHgに関しては,“軽症”という用語がハイリスクではないHDPと誤解される可能性があるため,用いないこととなった。
また,発症時期による分類については,旧分類では,JSSHPの前身である日本妊娠中毒症学会が行った調査結果に基づき,妊娠32週未満の発症を早発型,それ以降を遅発型と分類していた。しかし,欧米のガイドラインと足並みをそろえる形で,妊娠34週未満の発症を早発型,それ以降を遅発型と分類することとなった。