著: | 平川 亘(池袋病院 副院長,脳神経外科部長) |
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判型: | A5判 |
頁数: | 386頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2017年04月27日 |
ISBN: | 978-4-7849-4580-1 |
版数: | 第1版 |
付録: | 巻末付録(カラー):「認知症のかんたん診断と治療 まとめ」「認知症の薬の使い分け」 |
順天堂大学大学院客員教授 田平 武先生ご推薦!
「認知症診療の実践的な書! 薬の使い分け,さじ加減で認知症がここまで良くなるとは。」
●この本の内容だけで,プライマリケアで出会う認知症患者さんのほとんどは良くできます。
●CT,MRI,脳血流検査の話はほとんど出てきません。プライマリケアで診るという前提で解説しています。
●診断・治療法は簡単ながら,内容はバイブル級!
●著者の大人気講演「急性期病棟でのせん妄・意識障害治療」の内容も収載。
●脳外科医として救急対応にもあたる一方,毎日40人以上の認知症患者さんを診療する著者。同じ患者さんを長く診ることで見えてきた認知症診療のコツをまとめました。
I章 認知症の臨床かんたん診断
1.認知症の病型
2.高齢者の認知症の捉え方
3.実践!認知症の臨床かんたん診断
II章 失敗しない認知症治療とは
薬で認知症が悪化した?
III章 認知症治療薬の使いこなし
1.ドネペジル(アリセプトR)の使いこなし
2.リバスチグミン(イクセロンR・リバスタッチR)の使いこなし
3.ガランタミン(レミニールR)の使いこなし
4.メマンチン(メマリーR)の使いこなし
5.シロスタゾール(プレタールR)の使いこなし
6.認知症の周辺症状(BPSD)のコントロール
IV章 認知症のかんたん治療〈外来編〉
1.かんたん治療のアプローチ
2.実践!かんたん治療
3.病型別の治療法
V章 認知症のかんたん治療〈病棟編〉
急性期病棟のせん妄と認知症治療
column
索引
巻末挟み込み付録「認知症のかんたん診断と治療 まとめ」,「かんたん診断と治療的 認知症の薬の使い分け」
序
この本は認知症の専門書ではありません。この本だけでは認知症のすべてを理解することはできません。しかし,認知症についてだいたいのことはわかるはずですし,高齢者の認知症であれば9割の患者さんを良くすることはできます。
筆者は脳神経外科医です。認知症の専門家ではありません。けれども脳外科の手術を行いながら,脳卒中の救急患者さんを診ながら,外来では認知症の患者さんを長年診療してきました。現在も日に何十人もの認知症患者さんを治療しています。
筆者は認知症の「診断」だけをする医者ではなく,一人一人の認知症の患者さんを試行錯誤しながら懸命に「治療」する医者です。診断は簡単でいいと思っています。要は患者さんが良くなればよいのです。
今の病院に勤めるようになって18年。同じ病院で長年認知症の患者さんを診ているとわかることがあります。確かに認知症の治療は簡単ではありません。初めは軽いもの忘れだけだった患者さんが,徐々に認知症が悪化して,最後は寝たきりになってしまうことも多いのです。筆者は,そのような患者さんがどうにかして悪化しないように処方に工夫を凝らします。たとえ寝たきりになっても最期まで口からご飯が食べられるように努力します。正しい治療をすれば認知症治療薬で悪化を1年遅らせるどころか,何年でも良い状態で維持することができます。それは難しいことではありません。
脳を若返らせることはできませんが,物忘れはあっても家族などの介護者が介護しやすい状態で天寿を全うするまで維持することは可能です。
この本の中心となる認知症の治療は,筆者が認知症の専門書で学んだ知識だけではありません。数多くの認知症患者さんの診療を通して得た,経験に基づいた知識が大半です。認知症の経過を最初から最後まで診ていると,ガイドラインや治療指針には書いていないことが見えてきます。この診療経験ひとつひとつが貴重なものであり,多くのことを患者さんから学ばせて頂きました。我流と言ってもいいかもしれません。しかし,非科学的ではありません。
筆者はすべての患者さんに改訂長谷川式簡易知能評価スケールなどの認知症検査を行い,すべての記録を取っています。この診療経験はデータ化し,研究結果として学会でも発表しています。この本ではそのデータに基づいた治療方法も書いています。
認知症の専門の先生からは怒られるかもしれませんが,筆者は「この本の内容だけで,ほとんどの認知症患者は診ることができるし,良くすることができる」と思っています。
認知症の専門の先生はこの本を必要としないかもしれません。でも,これから認知症を診ようという先生方,プライマリケアを専門とする先生方にぜひ読んでほしいと思います。
認知症800万人時代はすぐそこまできています。プライマリケア医はもちろん,糖尿病や循環器の専門医も,消化器外科医も整形外科医も,認知症には縁がなかった大学病院の勤務医も,これからは皆が認知症を診ないといけなくなります。
この本は「かんたん診断と治療」というタイトルですが,世の中にあるどの本にも負けないくらい,最も簡単な認知症の診断と治療の本を目指して書きました。
「かんたん」とは「この程度の簡単さでも認知症は治療できます。患者さんを良くすることができます」という意味です。一見難しそうな認知症診療ですが,「この程度の知識」でも十分なのです。かんたんといっても適当という意味ではありません。より実践的で役に立つ内容であると思います。
また認知症の診断と治療の一番簡単な本として,介護職の方々や,認知症患者さんのご家族の方々にも手にとってもらいたいと思います。
この本の後半には急性期病棟で常に問題となる「せん妄」や,寝たきり,そして意識障害の治療についても書いてあります。嚥下機能が悪化し食べられなくなった患者さんの治療方法も書いてあります。ですから大学病院や救急病院などの急性期病棟の先生方,在宅診療を専門とする先生方にもぜひ読んでほしいと思います。
診断方法も治療方法もシンプルです。CTやMRI,脳血流検査の話もほとんど出てきません。専門用語は減らし,認知症についての基礎的,専門的な話は最小限にしました。
難しい話は何も出てこないけれども,これを読めば目の前の患者さんを良くすることができる。この本はそういう本です。
2017年3月 平川 亘