国際道路交通事故データベースをもとに、主要35カ国における人口10万人当たりの交通事故死者数が比較されています。最も少ないのはノルウェーで2.1、スウェーデン、アイスランドを経て、日本は4位で2.6です。ちなみに米国は下から3番目で12.8です。つまり、日本の道路交通は世界の中でも安全なほうと言えます。
死亡事故の背景などが主要国で比較されていますが、日本は諸外国に比べて圧倒的に歩行者の死亡割合が高いです(フランスの約2倍、スウェーデンの3倍以上)。さらに、日本では交通事故死者の約6割が65歳以上であり、世界の中で圧倒的に高齢の交通事故死者数が多いという特徴があります。したがって、高齢歩行者の死亡事故を低減することがわが国の課題です。
私たちは歩行者死亡事故の実態を解明するために、人口約140万人の地域における10年間の交通事故死者を分析しました。約6割が道路横断中に自動車に衝突されて死亡していましたが、年齢の中央値は77歳でした。ほとんどが高齢者ということです。そして、横断歩道上を歩いていた人は31.9%で、68.1%はそれ以外の場所を横断していました。
すなわち、どこでも、人が横断する可能性を考えて運転しなければなりません。また、飛び出してきた方向を調べると、対向車線側から(運転者から見て右側)が64.9%であり、歩道側(運転者から見て左側)の35.1%よりも圧倒的に多いという結果でした。
次に、歩行者が車両のどの部分と衝突したかを調べてみました。左側から飛び出してきた人では、車両の左前部と衝突することが最も多く、急に左側から飛び出してきたので、避けきれずに衝突したと考えられました。また、右側から飛び出してきた人も、同様に車両の左前部と衝突することが最も多いという結果となりました。右側には対向車が走っているので、まさか人が飛び出してくることはないだろうということで、右側に注意を向けていない結果と考えられます。
事実、車両の左前、中央、右前のそれぞれの衝突位置で、右側から飛び出してきた人と左側から飛び出してきた人について、衝突時の車両の速度を比較してみました。すると、どの位置でも、右側から飛び出してきた人との衝突のほうが、左側からよりも高速度でした。すなわち、右に注意を向けていない分、発見が遅れて十分にブレーキをかけられなかったと考えます。
高齢者の事故の原因として、道路を横断する際に十分な安全確認ができていないことや、体力の衰えを自覚できず、わたれると判断したことが挙げられます。さらに、認知機能低下による徘徊の可能性も考えられます。
事故が起きた道路の幅は6~11mが圧倒的に多く、ほとんどが片側1車線の道路です。日頃利用している生活道路が多いため、車はこないだろうと安易に考えていたかもしれません。いずれにせよ、運転者には、「右から高齢者が飛び出してくるかもしれない」という情報を、運転免許取得や更新時の教育で啓発することが重要です。
同時に、高齢者に対しても、原則として横断歩道上を歩くこと、十分に左右を確認してから道路を横断することを徹底しなければなりません。デイサービスや通所リハビリテーションの機会に情報提供してはいかがでしょうか。