No.4913 (2018年06月23日発行) P.65
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2018-06-20
最終更新日: 2018-11-28
宝塚歌劇を観に行ってきた。人生二度目、ほぼ半世紀ぶりの経験である。宝塚は大阪の北西、阪急電車あるいはJRで約30分あまりの場所にある。かの小林一三が、開業したものの閑古鳥が鳴く箕面有馬電気軌道(阪急電鉄の前身)の乗客増を狙ってつくったのが宝塚歌劇団の始まりである。
団員は宝塚音楽学校の出身者だけで、入団した後も「生徒」と呼ばれる。何と、その入学募集要項には「容姿端麗で」とはっきり謳ってある。それに、ご存じのように団員は未婚でなければならない。考えてみれば、今のような時代に問題にならないのが不思議なくらいのすごいシステムだ。
宝塚駅から「花の道」という綺麗な小道を歩いていくと、宝塚大劇場が見えてくる。その規模に驚いた。せいぜい1000人くらいのハコだろうと思っていた。なんのなんの、大劇場だけで座席数は2550もある。
建物はお城っぽいし、ロビーには赤いカーペットや豪華なシャンデリアが。足を踏み入れただけで、何となくウキウキしてくる。そして、お客さんの9割方は女性。歌劇団の制度も含めて、「タカラヅカ歌劇特区」なのではないかという気がしてくる。
観劇したのは5月星組公演。一部は、「地獄八景亡者の戯れ」や「崇徳院」といったおなじみの古典落語に題材をとった「ANOTHER WORLD」で、相当に笑えた。
二部の「Killer Rouge(キラールージュ)」は絢爛豪華な古典的レビューといえばいいのだろうか、ストーリーはあるようなないような感じだが、歌と踊りが半端ではない。
衣装もすごい。出てくる人数もすごい。その上、初舞台生のラインダンスもあって、唖然、呆然。気がついたら口が半開きになっていて、あわやよだれが垂れるところ。危ないところでありました。
数日後、ヅカファンの落語家さんたちによる、知る人ぞ知る「花詩歌タカラヅカ」なる出し物を、上方落語の定席である天満天神繁昌亭に観に行った。女装の落語家さんたちが大熱演で、死ぬほど笑えた。今年で7回目を数える「公演」らしいけど、なんでも、歌劇団は見て見ぬふりをしているとか。そらそうでしょうね。
いやぁ、初公演から100年あまり、まったく知りませんでしたけど、タカラヅカというのは完全にひとつの文化を形成してますな。ええ勉強させてもらいましたわ。
なかののつぶやき
「観劇後の復習に、この本『宝塚語辞典』(誠文堂新光社)を買いました。レベルの高い専門用語がいっぱい。ほとんど知らないことばかりで、とっても勉強になりました」