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【私の一本】ステラ

No.4913 (2018年06月23日発行) P.67

河合加与子 (こどもクリニック ケロちゃん 院長)

登録日: 2018-06-19

最終更新日: 2018-11-28

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娘の幸せのために自分の夢を犠牲にしてきた未婚の母と、その娘の固い絆を描いた感動ドラマ。日本ヘラルドが販売のDVDは現在廃盤

わが子を思う深い愛情を描く

ベット・ミドラー演じるバーテンダーのステラは、シングルマザーとして生きていたが、理由あって慈しんで育てた一人娘の前から姿を消すこととなる。

映画のラストシーンは娘の結婚式である。その式はガラス張りのレストランを貸し切って盛大に行われている。レストランの外では決して裕福そうとはいえない身なりのステラが、警備員に「今日は良家の子女の結婚式が行われているので一般の人は立ち去るように」と言われる。ステラは「少しだけ…二人が誓いのキスをするところを見たいの」と答え、それを見届けると何も言うことなく立ち去る。そのステラの表情と足取りは実に晴々と潔くも嬉しそうである。

私はこの映画を何度も見ているのだが、このシーンでは毎回涙が出る。そのステラの姿に、離れ離れになっていてもわが子を思う深い愛情を痛切に感じるからである。

その日、私はクリニックの昼休みを利用して市外の保育所の検診に出かけていた。その検診の最中に、言葉にするのが難しい何かの気配がふうわりと私の身体を包み込みながら通り抜けて行った。今まで感じたことのない感覚に思わず聴診器を外し辺りをゆっくり見回し、時計を見ると針は12時35分を指していた。

検診を終えてクリニックに戻ると、遠方に暮らす母の突然の訃報が届いていた。母には持病はあったがすこぶる元気で、ほんの二週間前にも私が住む高知に一人で遊びに来ていたというのに…。

自宅で父と昼食中に急に倒れたそうである。胸部大動脈瘤破裂でほぼ即死の状態であったそうだが、その時間は私があの気配を感じた12時35分であった。

あの不思議な感覚は母の魂が私の元に別れを告げに来たのだと思っている。

これが私と母の最後の思い出である。

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