まだ30歳を過ぎたばかりの女性患者は10年来の1型糖尿病を患い、20歳代後半より増殖性網膜症を発症し頻回の汎光凝固術を施行、当時、両眼白内障術前血糖管理のため当院内科に入院されていた。検査成績ではA1c 10%台、内因性インスリン分泌能はほぼ完全に枯渇し、神経伝導速度と心拍変動係数の低下、高度の起立性低血圧(臥位;140/100mmHg→立位;74/50mmHg)、慢性的な吐き気、尿蛋白陽性所見を認めた。高度の自律神経障害と視力低下のため、日頃は車椅子歩行を強いられ、ほぼ1日中病室に閉じこもり、声をかけるとにっこり笑顔をつくるものの、ほとんど言葉を発することがなかった。
2005年当時、著者はカリフォルニア大学でインスリン間欠静注療法の講習を受け、それを本邦で試行すべく症例を模索していた。インスリン間欠静注療法は現行のインスリン治療が持つ皮下投与という欠点を克服すべく、専用ポンプを用いて、インスリンを間欠的に静注し、本来パルス状に分泌されているインスリン分泌動態を血中に再現することで、肝臓での糖代謝酵素と全身ミトコンドリア機能の活性化を通した血糖変動の安定化と、短期的には自律神経機能の改善効果をもたらしうる画期的なインスリン投与法とされていた。
残り405文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する