(埼玉県 I)
「夢が増えたのは睡眠の質が低下しているのではないか? 睡眠障害の症状ではないか?」と心配する人が多くいます。実験室で被験者を何度も覚醒させ,直前の睡眠中の夢体験の有無について聴取すると,高い頻度で夢体験を報告します。レム(REM)睡眠中には感情的要素を多く含む鮮明な夢体験が多いのですが,ノンレム睡眠中にも夢体験が報告されます1)。
夢は不思議な体験で,覚醒直前に夢を体験していたとしても,印象的な夢でなかったり,夢をみたことを気にしないでいると,夢の内容だけでなく,夢をみたという体験そのものを忘れてしまいます2)。夢体験を記憶に残すには,覚醒後すぐに,覚醒中の意識で夢を再体験する必要があるようです。目覚ましが鳴ったら飛び起きて身支度しなければならないような忙しい生活をしていると,夢体験を記憶に残すことはほぼ不可能です。
多くの人は毎晩繰り返し夢をみているにもかかわらず,「自分はまったく夢をみない」あるいは「自分はほとんど夢をみない」と感じています。夢に興味を持ったり,夢をみることが健康に影響があるのではないかと気になり出したり,覚醒後にしばらく寝床内で過ごす生活をすると,覚醒時に夢体験の有無を確認するようになり,夢の有無やその内容を高い確率で想起することができるようになります。
慢性の不眠症では「夢ばかりみている」と訴えることが多くあります。起床時の質問票を用いた研究では健常者よりも夢の自覚が多かったのですが3),実験室で繰り返し覚醒させて夢体験の有無を比較した研究では,健常者と違いがなく,夢体験の頻度は増加していませんでした4)。少しでも長く眠ろうと寝床内で長時間過ごしたり,覚醒するたびに夢体験の有無を確認するようになった結果,夢体験を自覚しやすい状態になっていると考えられます。
夢が問題となるのは,悪夢(不安・恐怖・怒り・悲しみなどの不快な感情を引き起こし,覚醒後もこれらの不快な感情がしばらく持続する夢)を頻繁に体験し,睡眠が分断され,睡眠不足により日中の活動に影響が生じる場合で,「睡眠障害国際分類 第2版」では悪夢障害と診断されます5)。特に,心的外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder:PTSD)では,原因となった例外的に強いストレス体験(自分が死に瀕し,親しい人が目の前で死亡するほどひどい体験)と関連した悪夢が頻繁に出現します。
「夢をみる」ことを心配する患者には,悪夢に該当せず日中への影響がなければ,何ら心配ないことを説明します。「なぜ,急に夢が増えたのか?」という疑問に対しては,「誰でも毎晩何度も夢をみているのですが,夢に興味がないと,夢をみたこと自体を忘れてしまいます。夢に興味を持ったので,夢をみたことを自覚できるようになったのです」「以前は目覚ましが鳴ったら飛び起きるような生活ではありませんでしたか? 夢を覚えておく余裕もありませんでしたよね」などと説明します。
【文献】
1) Suzuki H, et al:Sleep. 2004;27(8):1486-90.
2) 大熊輝雄:睡眠の臨床. 医学書院, 1977.
3) Schredl M, et al:J Sleep Res. 1998;7(3):191-8.
4) Pérusse AD, et al:Sleep Med. 2016;20:147-54.
5) American Academy of Sleep Medicine:Internation-al Classification of Sleep Disorders:Diagnostic & Coding Manual. 2nd ed. Westchester, IL, 2005.
【回答者】
田ヶ谷浩邦 北里大学医療衛生学部健康科学科教授/北里大学東病院精神神経科