(岐阜県 K)
【無関心など自発性の低下に伴う健康管理の不備,抗精神病薬の抗コリン作用による】
精神疾患患者では,疾患の症状として無関心など自発性の低下を認める場合,暑熱環境を回避しないことや自らの健康管理を十分に行わないことなどで,熱中症に罹患するリスクが高くなります。さらに抗精神病薬には副作用として抗コリン作用を持つものがあり,発汗抑制によって体温調節機能が低下すると熱中症を生じやすくなります。
熱中症の発生には,外気温や湿度などの環境要因,栄養状態や基礎疾患,服薬などの患者側の要因,さらに激しい運動や水分の摂取が困難な環境といった行動に関する要因などが複合的に作用します。精神疾患患者における熱中症についても,疾患そのものの症状や服用している薬剤の影響に加えて,その他の要因が複雑に関与するため,個々の要因の関与の大きさを判断することは困難ですが,現病歴や既往歴,服薬歴などを詳細に聴取し,今後の熱中症を予防するためにすべての要因について評価する必要があります。
悪性症候群は主に抗精神病薬や抗パーキンソン病薬の服薬下で生じる高体温,意識障害,筋強剛などの錐体外路症状,頻脈や発汗過多,血圧の変動などの自律神経症状を主症状とする症候群です。その発生率は前向き研究において0.02~0.9%であり1),診断基準としてLevenson(表1)やPopeら,Caroffらによるもの,またDSM-Ⅳ-TRに示されている研究用基準案(表2)があります2)~5)。
一方,セロトニン症候群は高体温,意識障害,頻脈や頻呼吸など自律神経症状を認める点で悪性症候群に類似していますが,セロトニン作動薬の服薬歴があり,白血球増多やCK高値を認める頻度が悪性症候群より低く,ミオクローヌスや腱反射亢進を多く認める点で異なります6)。
熱中症との鑑別のため,まず暑熱環境への曝露の有無,抗精神病薬や抗パーキンソン病薬,セロトニン作動薬などの服薬歴を確認します。熱中症は筋強剛などの錐体外路症状やミオクローヌス,腱反射亢進などを認めることが少ない点で悪性症候群,セロトニン症候群と鑑別が可能です。しかし,悪性症候群やセロトニン症候群による意識障害のために暑熱に曝露され,熱中症を併発することもあります。鑑別困難な症例は,冷却処置を行いつつ,病歴や症状から悪性症候群を強く疑う場合は,筋弛緩を目的に末梢性筋弛緩薬のダントロレンを投与します。ダントロレンは高体温も緩和しますが,副作用として肝機能障害を生じるので注意が必要です。悪性症候群やセロトニン症候群では,まず被疑薬および発症に関与する可能性のある他の薬剤を速やかに中止あるいは減薬し,抗パーキンソン病薬の中止や減量で発生した悪性症候群では投与量を元に戻すことが重要です。
【文献】
1) Tse L, et al:Curr Neuropharmacol. 2015;13(3): 395-406.
2) Levenson JL:Am J Psychiatry. 1985;142(10): 1137-45.
3) Pope HG Jr, et al:Am J Psychiatry. 1986;143(10): 1227-33.
4) Caroff SN, et al:Med Clin North Am. 1993;77 (1):185-202.
5) 髙橋三郎, 他, 訳:DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 2002, p762-4.
6) Mann SC, et al:Serotonin syndrome. Neuroleptic malignant syndrome and related conditions. 2nd ed. American Psychiatric Association Publishing, 2003, p75-92.
【回答者】
中村俊介 和歌山ろうさい病院救急科部長