(秋田県 F)
【PAC+BEV療法中の内臓転移・骨転移増悪時の選択肢はエリブリン,アンスラサイクリン系薬剤】
少なくともERの発現が陽性であったことが確実な乳癌の術後30年以上経過してからの骨転移再発の症例に関するご質問です。
確かにHER2の発現状況を確認することが望ましいのですが,骨生検により得られた検体は,脱灰操作なしに薄切することは困難で,この脱灰操作に伴って各種抗原性が低下する(免疫染色で偽陰性と診断される)ことが知られています。
本症例は再発様式(原発巣がER陽性,晩期に骨転移のみで再発)からHER2陰性の可能性が高く,侵襲性はあるが信頼性に乏しい骨生検は必須とは言えず,臨床上はER陽性・HER2陰性転移性乳癌〔ER+HER2-MBC(metastatic breast cancer)〕として治療して差し支えないと考えます。
現在までの臨床経過では,第一次薬物療法としてのティーエスワン®への感受性も比較的良好でしたが,骨転移巣の拡大を認めたことから第二次薬物療法としてPAC+BEV療法への変更がなされています。骨代謝修飾薬(デノスマブまたはゾレドロン酸)の併用に関する情報はありませんが,万が一併用されていない場合は,合併症(う歯,腎機能障害など)のチェック後,速やかな併用開始をお勧めします。
おそらく,現在のPAC+BEV療法は「骨転移のみ」という病態から,臨床試験の結果1)より長い(具体的には1年間かそれ以上)奏効期間を期待できると思われますが,ご質問の本題である「今後の化学療法をどう進めればよいか」に関しては,「病状がどのように増悪していくか」に大きく依存するため,病状が安定している今から,将来を見据えておくことが重要と考えます。
たとえば,PAC+BEV療法を継続している間に内臓転移が出現した場合は,早めに第三次薬物療法として化学療法を選択すべきと考えます。5- FU系薬剤およびタキサン系薬剤耐性と考えられることから,エリブリンまたはアンスラサイクリン系薬剤が選択肢となります。筆者の場合,毒性が低いことと,副次的な効果2)を期待して前者を積極的に使用しています。
では,内臓転移が出現しないまま,骨転移のみが増悪(もしくは画像上の変化がなくとも腫瘍マーカーが明らかに上昇している場合も含む)した場合はどうすべきか,無論,上記と同様の選択でもよいのですが,ER+HER2-MBCで再発内分泌療法がなされていなければ,内分泌療法も選択肢となります。
さらに一歩踏み込んで,現在の治療により最大の奏効が得られている時期(現時点~治療開始1年前後)にあえて内分泌療法へスイッチする(維持的内分泌療法),という選択肢もあります。効果が持続している状態では,勇気のいる選択ではありますが,欧州では日常臨床でしばしば選択されています3)〜5)。
【文献】
1) Brufsky AM, et al:J Clin Oncol. 2011;29(32): 4286-93.
2) Twelves C, et al:Breast Cancer Res. 2015;17(1): 150.
3) Cardoso F, et al:Ann Oncol. 2017;28(1):16-33.
4) Bonotto M, et al:Breast. 2017;31:114-20.
5) Watanabe J, et al:Breast Cancer Res Treat. 2017; 166(3):911-7.
【回答者】
渡邉純一郎 静岡県立静岡がんセンター女性内科医長