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再発乳癌症例の化学療法をいかに行えばよいか?

No.4925 (2018年09月15日発行) P.63

渡邉純一郎 (静岡県立静岡がんセンター女性内科医長)

登録日: 2018-09-15

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67歳,女性。1988年,38歳時に左乳癌で乳房切除術を施行。大きさ4×3cm,乳頭状腺管癌,リンパ節転移なし,エストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)(+)。術後数年間はタモキシフェン(ノルバデックス®)を内服。
1993年,子宮筋腫,卵巣嚢腫で子宮(筋腫)摘出,両側卵巣摘出。
2011年,CEA 28.8ng/mL,CA15-3 51U/mLと上昇。PET,CTで仙骨部に高吸収域があり,乳癌骨転移の疑い。肺・消化管などの精査では異常なし。乳癌骨転移と判断し,2012年3月よりテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合(ティーエスワン®)25mg 4錠/日内服開始。
2013年4月,全身倦怠感が強く,CEAとCA15-3が正常化し,ティーエスワン®は休薬。
2015年10月,再び腫瘍マーカーが上昇(CEA 4.9ng/mL,CA15-3 60.8U/mL),ティーエスワン®を再開。骨シンチグラフィーで頭骨,胸腰椎,仙骨,肋骨などに異常集積を多数認めました。
2017年1月,CEA 48.2ng/mL,CA15-3 110U/ mLと上昇したためティーエスワン®の内服は中止し,第1週パクリタキセル(PAC)130mg+ベバシズマブ(BEV)(アバスチン®)400mg,第2週PAC 130mg,第3週PAC 130mg+BEV 400mg,を1クールとした化学療法を開始。現在7クールを投与し,CEA 7.9ng/mL,CA15-3 42.1U/mL。
現在,腫瘍マーカーは低下していますが,いずれまた上昇するものと考えられます。また,かなり以前の手術で,手術時の組織がなくHER2蛋白も調べられません。今後の化学療法をどう行えばよいか,ご教示下さい。

(秋田県 F)


【回答】

【PAC+BEV療法中の内臓転移・骨転移増悪時の選択肢はエリブリン,アンスラサイクリン系薬剤】

少なくともERの発現が陽性であったことが確実な乳癌の術後30年以上経過してからの骨転移再発の症例に関するご質問です。

確かにHER2の発現状況を確認することが望ましいのですが,骨生検により得られた検体は,脱灰操作なしに薄切することは困難で,この脱灰操作に伴って各種抗原性が低下する(免疫染色で偽陰性と診断される)ことが知られています。

本症例は再発様式(原発巣がER陽性,晩期に骨転移のみで再発)からHER2陰性の可能性が高く,侵襲性はあるが信頼性に乏しい骨生検は必須とは言えず,臨床上はER陽性・HER2陰性転移性乳癌〔ER+HER2-MBC(metastatic breast cancer)〕として治療して差し支えないと考えます。

現在までの臨床経過では,第一次薬物療法としてのティーエスワン®への感受性も比較的良好でしたが,骨転移巣の拡大を認めたことから第二次薬物療法としてPAC+BEV療法への変更がなされています。骨代謝修飾薬(デノスマブまたはゾレドロン酸)の併用に関する情報はありませんが,万が一併用されていない場合は,合併症(う歯,腎機能障害など)のチェック後,速やかな併用開始をお勧めします。

おそらく,現在のPAC+BEV療法は「骨転移のみ」という病態から,臨床試験の結果1)より長い(具体的には1年間かそれ以上)奏効期間を期待できると思われますが,ご質問の本題である「今後の化学療法をどう進めればよいか」に関しては,「病状がどのように増悪していくか」に大きく依存するため,病状が安定している今から,将来を見据えておくことが重要と考えます。

たとえば,PAC+BEV療法を継続している間に内臓転移が出現した場合は,早めに第三次薬物療法として化学療法を選択すべきと考えます。5- FU系薬剤およびタキサン系薬剤耐性と考えられることから,エリブリンまたはアンスラサイクリン系薬剤が選択肢となります。筆者の場合,毒性が低いことと,副次的な効果2)を期待して前者を積極的に使用しています。

では,内臓転移が出現しないまま,骨転移のみが増悪(もしくは画像上の変化がなくとも腫瘍マーカーが明らかに上昇している場合も含む)した場合はどうすべきか,無論,上記と同様の選択でもよいのですが,ER+HER2-MBCで再発内分泌療法がなされていなければ,内分泌療法も選択肢となります。

さらに一歩踏み込んで,現在の治療により最大の奏効が得られている時期(現時点~治療開始1年前後)にあえて内分泌療法へスイッチする(維持的内分泌療法),という選択肢もあります。効果が持続している状態では,勇気のいる選択ではありますが,欧州では日常臨床でしばしば選択されています3)〜5)

【文献】

1) Brufsky AM, et al:J Clin Oncol. 2011;29(32): 4286-93.

2) Twelves C, et al:Breast Cancer Res. 2015;17(1): 150.

3) Cardoso F, et al:Ann Oncol. 2017;28(1):16-33.

4) Bonotto M, et al:Breast. 2017;31:114-20.

5) Watanabe J, et al:Breast Cancer Res Treat. 2017; 166(3):911-7.

【回答者】

渡邉純一郎 静岡県立静岡がんセンター女性内科医長

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