【長期(10年間)の内分泌療法は益と害のバランス,患者の希望を勘案して施行すべきである】
女性ホルモン依存性に増殖・進展するエストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)陽性乳癌は,現在,全乳癌の8割を占める。乳癌には手術などの初回治療後,5年以降に再発(晩期再発)する症例が存在する。晩期再発乳癌はほぼすべてER陽性乳癌であり,ER陽性乳癌の再発症例の約4割は5年以降に再発死亡する。晩期再発をきたす乳癌は増殖が遅く培養細胞が樹立されていないこともあり,そのメカニズムはいまだ解明されていない。
これまでER陽性乳癌の再発予防のために行われる術後内分泌療法(ホルモン療法)の標準的な期間は5年間であった。最近,より長期(10年間)の術後内分泌療法により晩期再発が抑制されることが,いくつもの臨床試験により証明されてきている。メタアナリシスでは,アロマターゼ阻害薬の延長投与により,大きな腫瘍径あるいはリンパ節転移陽性症例において晩期再発抑制効果が高いことが示された1)。一方,アロマターゼ阻害薬の長期投与による副作用(骨折,心血管系疾患)も指摘されている2)。
長期の内分泌療法は益と害のバランス,患者の希望を勘案して施行すべきであると考える。
【文献】
1) Goldvaser H, et al: Cancer Treat Rev. 2017;60: 53-9.
2) Goldvaser H, et al:J Natl Cancer Inst. 2018; 110(1).
【解説】
山下啓子 北海道大学乳腺外科教授