【エストリオール(E3)腟錠投与が,状況によっては許容できる可能性がある】
萎縮性腟炎は,閉経に伴い血中エストロゲンレベルが低下することで発症し,腟粘膜の菲薄化と,それに伴い,腟内の乾燥,性交痛,出血等の症状を引き起こします。治療としては,全身へのHRTおよびエストロゲンの局所投与が行われています。
HRTは本疾患に限らず,閉経期に発生する血管運動神経障害様症状(ホットフラッシュ,寝汗),骨粗鬆症の予防・治療に,きわめて有用性が高いとされています。しかし,乳癌既往者に対するHRTは再発,転移,対側乳癌発症を6.9倍増加させるという報告があり1),日本産科婦人科学会の『ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版』でも乳癌既往者へのHRTは禁忌とされています。なお,エストロゲンの局所投与にはE3腟錠が使用されていますが,こちらについても現状は,添付文書上は乳癌既往者には禁忌となっています。
乳癌では,がん細胞増殖と性ホルモンに密接な関係があります。乳癌にはエストロゲン受容体(estrogen receptor:ER),プロゲステロン受容体(progesterone receptor:PgR)を発現しているタイプが多く,日本乳癌学会の2018年次乳癌患者登録調査報告によると,乳癌患者の7割以上がER陽性乳癌と診断されています。ER陽性乳癌ではエストロゲンの作用により,がん細胞の増殖が促されます。
エストロゲンではエストラジオール(E2)の活性が最も強く,ついでエストロン(E1),エストリオール(E3)の順となり,体内投与時の臨床効果もこの順に弱くなっていくとされています2)。実際にE3を単独使用した場合の,乳癌リスク上昇の報告はありません。E3腟錠は局所投与であり,また,エストロゲン活性が最も低いものを使用していることから,血中のエストロゲン濃度は低い水準であることが推測されます。
上述したように,乳癌患者のうち3割未満はER陰性乳癌ですので,このタイプであればエストロゲン投与と乳癌再発には直接の関係はないはずです。
以上より,乳癌既往者でもER陰性の場合,萎縮性腟炎の症状により生活の質(QOL)が下がっている状況であれば,E3腟錠での治療が許容される可能性はあると思います。今後のデータの蓄積,臨床試験による検討が待たれます。
【文献】
1)Holmberg L, et al:Lancet. 2004;363(9407): 453-5.
2)矢野 哲, 他:HORM FRONT GYNECOL. 2002;9(4): 341-5.
【回答者】
吉沢あゆは 昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門
明石定子 昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門教授