乳腺症は日常診療で遭遇する最も頻度の高い,非腫瘍性かつ非炎症性の乳腺疾患である。乳房痛,しこり,乳頭分泌などの症状を呈する良性疾患であり,30~40歳代に多いが,閉経に伴い症状が軽減する。組織学的には,増殖性および退行性変化が共存しており,乳管過形成,腺症,囊胞,アポクリン化生,硬化性腺症などの多彩な像を呈する。つまり,乳腺症とは単一の疾患ではなく,様々な病変群の総称であり,概念的な疾患である。
乳房痛(特に月経前),乳房腫瘤および乳頭分泌を呈する。
マンモグラフィーでは高濃度に乳腺が描出され,両側にびまん性の石灰化を認めることがある。超音波検査では,豹紋状陰影(mottled pattern)がみられる。囊胞の場合は,マンモグラフィーでも超音波でも境界明瞭の腫瘤影を呈する。画像所見にて乳癌との鑑別が困難な場合は,針生検や摘出生検による病理診断を行う。
良性病変であり,確立した治療方法もないため,原則的には治療は不要である。
疼痛の強い囊胞の場合は穿刺排液にて疼痛が消失することもある。乳房痛が強い場合はアセトアミノフェンやNSAIDsなどの鎮痛薬を考慮してもよいが,時間の経過で軽快することが多い。乳房痛に
対しては,アンドロゲン製剤であるダナゾールが認可されているが,体重増加,月経不順およびホットフラッシュなどの有害事象がみられる。
生検にて異型乳管過形成の診断となった場合はその後の乳癌発症リスクが高いため,フォローアップが必要となる。
【参考資料】
▶ Sabel MS, et al:Overview of benign breast disease. UpTo Date®.
[https://www.uptodate.com/contents/overview-of-benign-breast-diseases]
▶ 日本乳癌学会, 編:乳腺腫瘍学. 第3版. 金原出版, 2020, p164.
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