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ラダック天空紀行(その4)─「遠くへ行きたい」状態[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(219)]

No.4926 (2018年09月22日発行) P.65

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2018-09-19

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おそらく、多くの人に思われているのとはちがって、私はきわめてシャイである。初対面の人と会うのがわかっている時など、何通りも出会いをシミュレーションしないと落ち着かないほどだ。

ただし、仲良く話せるようになるまでわずか2~3分しかかからない。それに、一旦軌道にのると人の数倍はしゃべる。だから、シャイだとは気づかれないだけである。

そんなだから、「幸せの黄色いハンカチ」の高倉健みたいに、自分は無口ですからと言ってすませれば楽だろうと思う。にもかかわらず、知らない人と話すのが大好きというのは、我ながら困ったものである。

トレッキング途中の田舎の村で散歩していると、2歳くらいの男の子がおばあさん(推定)と遊んでいた。ツーショットをチェキでプリントしてあげたら、周りにいた他3名のおばさんもほしいという。皆で記念撮影して、写真をお持ち帰りいただいた。

村はずれの古びた僧院へも行った。78歳の老尼僧を筆頭に3人で維持している古びた建物だ。資金繰りが苦しいとかいう話なので寄附をしたら、えらく喜ばれた。

現地の感覚ではずいぶんな金額なのだろう。ガイドさんに、寄附をこんなにくれるのだから、お前はいったい1日にいくらガイド代をもらっているのだと訊ねていたらしい。不躾な尼さんであるが、明るくてすごく感じが良かった。お茶とツァンパ(麦こがし)をちょうだいした。

ホテル近くのクリーニング屋さんの軒下で店番をしている怪しいおじさんに声をかけられた。耳かきの世界チャンピオンだから、耳の穴を見せろという。怪しさ満点である。なんやねん、そのチャンピオンって。

俺の家は代々耳かき業である、とか、世界中の人の耳かきをして絶賛されている、とか、あまりにおもろいことを言うので、耳かきをしてもらうことに。現地の感覚でいうとえらくぼられたと思う。でも、むっちゃおもろかったから許す。

国内外を問わず、旅先で見知らぬ誰かと話をするのは大好きである。TV番組のタイトルから「遠くへ行きたい」状態と名付けて楽しんでいる。耳かきチャンピオン以外はガイドさんの通訳を介してだったから、それほど話をできたわけではないのが残念だったけれど、今回もそれを満喫した。だから旅はやめられない。

なかののつぶやき

「自称・耳かき世界チャンピオンのおっちゃんに耳かきをしてもらってるところ。おっちゃんの名誉のために、耳がえらくすっきりしたことは申し添えておきます」

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