株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

乳癌における腫瘍浸潤リンパ球(TILs)

No.4932 (2018年11月03日発行) P.52

荒木和浩 (兵庫医科大学乳腺・内分泌外科准教授)

三好康雄 (兵庫医科大学乳腺・内分泌外科教授)

登録日: 2018-11-03

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【バイオマーカーおよび治療標的として注目を集める】

乳癌の間質に浸潤するリンパ球,腫瘍浸潤リンパ球(TILs)は,治療効果と予後の予測に有用である。乳癌におけるTILsは,元来生体にあるがんに対する免疫応答,つまりは腫瘍免疫(がんに対する宿主の免疫監視機構)を反映している。がんの成立には,微小環境においてがん細胞と免疫細胞との間で免疫抵抗性を獲得することが必要である。

この免疫監視機構(免疫編集)は,臨床的にがんが発生するまでの過程を3相にわけている1)。排除相,平衡相,そして逃避相である。排除相では形質転換したがん細胞の免疫原性が高く,NK細胞などの自然免疫やヘルパーT細胞やキラーT細胞による獲得免疫により,がんとして顕在化する前に生体から排除される。平衡相では排除相から免れたがん細胞が,免疫細胞との間で不顕性のまま平衡状態を維持する。がん細胞の免疫原性が低下するとこのバランスが破綻し,がんが顕在化して逃避相となる。乳癌の多くで様々な程度のTILsが確認され,多数の解析によりTILsの割合が乳癌の予後と治療効果の予測に有効であることがわかった。ドセタキセル+トラスツズマブ±ペルツズマブによる進行HER2陽性乳癌の臨床試験ではTILsが全生存期間と相関していた。特にTILsの割合が高いものでは,ペルツズマブを上乗せした群はトラスツズマブ単独群より予後良好であった2)。このようにTILsは,バイオマーカーとしても,治療標的としても注目されている。

【文献】

1) Schreiber RD, et al:Science. 2011;331(6024): 1565-70.

2) Luen SJ, et al:Lancet Oncol. 2017;18(1):52-62.

【解説】

荒木和浩*1,三好康雄*2  兵庫医科大学乳腺・内分泌外科 *1准教授 *2教授

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top